石井貴子が涙のGⅠ初制覇「心が折れてもう走れない」大ケガから完全復活 波乱のパールカップでベテラン勢が輝く (2ページ目)

  • ハル飯田●取材・文 text by Haru Iida

【「恵まれた」ポジションから執念の追走劇】

 2014年のデビューから順調に勝ち星を積み重ね、ガールズケイリンコレクションを4度制覇するなど第一線で戦ってきた石井だが、一時はケガで引退を覚悟するほどの苦境を経験した。2021年に落車で大ケガを負って欠場を余儀なくされると、復帰した後も、練習中の落車で複数箇所を骨折。度重なる試練に競技への情熱は途絶える寸前だった。しかし欠場中にも復帰を待ちエールを送り続けたファンの思いが、再び石井貴子をバンクへと導いた。

 自身初のGⅠ決勝を7番車で迎えた石井は「7番手(の位置取り)になるだろう」と覚悟を決めてスタートを切る。予想どおり最後方からの追走となったが、目の前のポジションに入ったのは、奥井迪(東京・106期)。予選・準決勝ともバックストレッチで先頭に立つスタイルを貫いてきた同期の背後で、「まさか奥井さんの後ろがとれるとは」と驚きを隠せなかった。願ってもないポジションを「恵まれた」と感じ、同時に「この勝負権は絶対に渡さない」とも決意した。

 打鐘を受けて奥井が前に出始めると、石井もその後ろをピタリと追走する。後続を振り切らんとする奥井のスパートにも、接触しながらのポジション争いにも臆さず、執念ですがりつくと、最後の直線は「いつもどおり、何も考えられなかった」ほど力を振りしぼり、決勝線へ雪崩込んだ。

 石井は無我夢中で走り切ったため、何着かわからないほどだったが、顔を上げると場内ビジョンに映し出される自分の姿が目に入った。勝った。そう確信すると、バンクを周回する石井の目からは涙があふれて止まらなかった。決勝でのゴールライン付近。7番車・橙が石井、2番車・黒が奥井、5番車・黄が尾崎睦 photo by Yasuda Kenji決勝でのゴールライン付近。7番車・橙が石井、2番車・黒が奥井、5番車・黄が尾崎睦 photo by Yasuda Kenjiこの記事に関連する写真を見る

レース後、号泣する石井 photo by Yasuda Kenjiレース後、号泣する石井 photo by Yasuda Kenjiこの記事に関連する写真を見る

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