オリンピック公式映画はどうあるべきか。『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』の青山真也監督が語る意義と問題点 (2ページ目)

  • 小崎仁久●取材・構成 text by Kosaki Yoshihisa
  • photo by Kyodo News

オリンピックのために解体された都営霞ヶ丘アパート

 2021年7月に上映が始まった『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』という映画作品がある。旧国立競技場から明治公園を挟んだ南側に建っていた都営霞ヶ丘アパート。新国立競技場建設のために東京都はアパートの解体を決め、2017年までに立ち退きを余儀なくされた住民を撮った、青山真也監督のドキュメンタリーである。

 2012年、アパート住民に対して突如「ラグビーワールドカップ開催のため」の移転要請通知が届いた。アパートの住民有志「霞ヶ丘アパートを考える会」が、2014年7月に当時の舛添要一都知事に提出した計画の見直しを求める要望書によれば、東京都、国立競技場の運営者である日本スポーツ振興センター(JSC)は「国が決定した計画」と一方的な説明に終始し、2013年11月から「早期移転」が始まったとされている。

 住民にアンケート調査などを行なった茨城大学の稲葉奈々子准教授(当時)は書籍『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』(編著者:青山真也/左右社)の中で、2014年の6、7月に行なった立ち退きに関するアンケート結果について記している。それによると約160世帯のうち43世帯が回答し、34世帯が「このまま住み続けたい」と回答したという。

『東京オリンピック2017』では東京都など各機関と住民とでやり取りされた実際の資料も掲載し、映画で描かれた立ち退きの経緯を振り返っている。

 いつしかアパート解体の理由は「オリンピック開催のため」に変更され、ザハ・ハディッド設計の巨大競技場案が白紙撤回されてコンパクトな競技場案に落ち着いたが、アパート解体の計画は見直されず。2012年当時の住居者は230世帯。若年層を中心に早く移転する住民もいたが、都が移転の期限と設けた2016年1月になっても約130世帯が残っていた。

 単身者の移転先は都営住宅の1DKで、これまでの霞ヶ丘アパートの2DKから転居するには、多くの家財道具なども捨てる必要がある住民もいた。東京都からの移転説明会資料には、移転料17万1000円が支払われることや処理方法の案内はあるが、補助を行なうといった記述はない。居住者の平均年齢は65歳を超え、単身者が多く、障害を持つなど作業が難しい住民もいただろう。

 そのため転居したくはない、したくてもできない人たちが数多くいたようだ。行政のやり方に反対する住民は、東京都、文部科学大臣、オリンピック・パラリンピック担当大臣、IOCのバッハ会長にも要望書を提出したが、話し合いの場が持たれることはなかったという。

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