オリンピック公式映画はどうあるべきか。『東京オリンピック2017 都営霞ヶ丘アパート』の青山真也監督が語る意義と問題点 (4ページ目)

  • 小崎仁久●取材・構成 text by Kosaki Yoshihisa
  • photo by Kyodo News

東京五輪で利益を得た報道機関

 東京五輪はジャーナリズムのあり方が問われた大会でもある。

 NHKと民放各社で組むジャパンコンソーシアムは、放映権料として平昌五輪と東京五輪に際し、IOCに約660億円を支払った。新聞各社も全国紙5紙すべてがオリンピックのスポンサーになっており、そのうち読売新聞、毎日新聞、朝日新聞、日本経済新聞は契約金60億円とも言われるオフィシャルパートナーとなっていた。ここまで多くの報道機関が大会による利益を得ることは、オリンピックの歴史としても例がない。

 各社は、「報道とは一線を画す」という旨の説明を行なったが、それは果たされているのだろうか。

 さらに『都営霞ヶ丘アパート』の別のシーンでは、立ち退き期限が迫り、自らリヤカーを引いて引っ越しを始めた隻腕の高齢男性が映し出される。男性が団地内で重い荷物が乗ったリヤカーを引くのに苦労する中、近隣の野球部の学生か、ユニフォーム姿の若者たちがランニングで近づいてくる。

 青山監督はその場面について、「偶然撮れたシーンで、この野球部の高校生たちはただランニングをしていただけだと思いますが、今回のオリンピックのメタファーです。スポーツをする者が、他人の生活圏にズカズカを入り込み、困っている者を助けることなく通り過ぎていく。東京五輪もそうでした」と話す。

問われる公式記録映画のあり方

 この"非公式"な東京オリンピック映画を撮った青山監督は、記録の重要性を説いている。

「オリンピックと映画はほぼ同じ時代に始まり、記録映画はオリンピックの変化、スポーツ文化の変化を撮ってきた有意義なものと言えます。

 今回(東京2020大会)の公式映画も、内部に入らないと撮れない会議のシーンや、組織委員会、IOCなどの批判とも受け取れるカットも入っています。オリンピック公式映画史の中では、これらが記録として残ったことは価値ある映画だった、と言えるのではないでしょうか。SIDE:Aは、アスリートを削ぎ落とし、人間としての選手を撮っていると感じました。

 ただ、難民選手団は出てきますが、オリンピック史上初めてトランスジェンダーの選手が出場したことが入っていないことは記録としては問題が残るでしょう。トーマス・バッハ会長に対しても批判の目が向くような場面もあります。しかし、オリンピック中止を訴えるデモ隊に歩み寄り、話し合いを提案するものの、聞き入れてもらえず立ち去るシーンはフェアネスを欠いていると言えるでしょう。話し合おうとしなかったのは、五輪反対派の側だったという印象を与えています」

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