「一緒に仕事をしたくなるクライマー」楢﨑智亜の素顔。最強&金メダルへの道はまだ続く (2ページ目)

  • 津金壱郎●取材・文 text by Tsugane Ichiro
  • photo by JMPA

 付き合いが7年におよぶ楢﨑のことを、橘薗さんはこう見ている。

「本当によく練習しますよ。1年で20足は履きつぶしますからね。それに智亜ほど研究熱心なクライマーはいないんじゃないですかね。

 自分が強くなるために必要な要素を把握していて、その課題をクリアするまでブレずにトレーニングをする。それを潰したら次へという感じで。常に成長を続けているので、定期的に智亜のことを見ておかないと、こちらが置いてかれてしまうんです」

 そのふたりが一緒に開発したクライミングシューズがある。それがカリフォルニアのアンパラレル社の『フラッグシップ』。楢﨑が東京五輪のボルダリングとリードで履いていたクライミングシューズだ。

「シューズを開発する時の智亜の要望が、つくり手からすると『無茶ぶりか!』っていうもので。エッジも薄いボテも踏めて、トゥフックもヒールフックもバチ効きする。それってクライマーなら誰もが夢見る、魔法のシューズですよ。それを平然とオーダーしてくるんです。

 しかも、智亜は頭の回転がいいから(要望について細かく)説明しなかったり、説明しても(内容が)飛ぶんですよ。ホップの次にステップがなくて、いきなりジャンプするみたいな感じ(笑)」

 そうした楢﨑の感覚をしっかり把握し、クライミングシューズづくりの現場に落とし込んでいく。サンプルができあがれば楢﨑のもとに届け、履いた感想をふたたび現場にフィードバックして修正する。そうした工程を何度も繰り返し、サンプルは最終的に10足以上に及んだという。

「仕事だからではなくて、やっぱり智亜のクライミングに向かう姿勢に惚れ込んでるんですよね。彼はよく『最強クライマーになりたい』と言いますが、これは競技のことだけではなく、クライマーとして最強という意味なんですけど、それを口で言うだけに見合った練習をしている。

 しかも、人間性も本当にいい奴なんです。変にプライドが高いこともないし、人の意見に耳を傾けもする。一緒に仕事をしたくなるクライマーなんです」

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