レスリング文田健一郎はなぜ、37年ぶりの金メダルが獲れなかったのか

  • 松瀬 学●文 text by Matsuse Manabu
  • photo by JMPA

 悔しい、悔しい、銀メダルである。レスリングのグレコローマン60キロ級。37年ぶりの金メダルが有力視されていた文田健一郎が決勝でルイスアルベルト・オルタサンチェス(キューバ)に「投げ」を封じられ、敗れた。マットから下りると、25歳はふらつきながら号泣した。その瞬間を述懐する。

「通用しなかったなあ、ってそれだけでした。不甲斐ないです。自分の攻めが......。自分の実力が相手の対策を上回れなかったなって。それがすごく悔しいし残念です」

文田は金メダルを確実視されながらも、決勝で敗れ、銀メダルに終わる文田は金メダルを確実視されながらも、決勝で敗れ、銀メダルに終わる 2日夜。幕張メッセ。無観客のはずなのに、キューバのメディアや関係者の大声援が響き渡っていた。雰囲気はアウェー。文田としては、相手が自分の投げ技を警戒してくるのはわかっていた。案の定、手首や腕をつかまれ、うまく組ませてもらえない。

 徹底的に研究されていたのだろう。組んだら圧倒的に強いことは世界に知られている。それでも文田が前に出ればよかったのだが、投げの体勢に持ち込もうとすると相手の圧力を受けてしまった。相手の押しも強かった。文田がパッシブ(消極的)をとられてしまった。

 グラウンドの攻防では、第1ピリオドは回され、第2ピリオドでは回すことができなかった。場外もとられてポイントを1‐5とリードされてしまう。焦りも出る。相手の術中にまんまとハマってしまった。

 結局、何もさせてもらえなかった。上半身の攻防のみとなるグレコ。五輪4試合で得意の「投げ」を1回も仕掛けられなかった。

 恩師の松本慎吾強化委員長も「素直に悔しいです」と漏らした。

「相手に先に先に全部展開されて(文田が)プレッシャーをかけられてしまった。相手が勢いにのっていたのもありますし、それに対して文田本人の形を出せなかった。スタンドにおいてもグラウンドにおいてもそれが敗因だと思います」

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