才媛アスリート・小平奈緒がオランダ留学で学んだ本場の「語学と殺気」
文武両道の裏側 第5回
スピードスケート 小平奈緒選手(相澤病院)
後編
学業とスポーツを両立してきたアスリートの魅力に迫る連載企画『文武両道の裏側』。平昌オリンピック、スピードスケート女子500m金メダリストで、才媛としても知られる小平奈緒は、大学進学後、競技を通じて"学び"の世界も広げていった。
平昌ではイ・サンファ選手との友情で人々の心を震わせ、ソチオリンピックの後に生活したオランダでは元金メダリストのマリアンヌ・ティメルに師事し、短期間でオランダ語が上達するなど、グローバルに評価される小平の人間性は、どのように培われていったのか。
平昌五輪スピードスケート女子500mの金メダリスト・小平奈緒
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──目指していた信州大学に合格して、大学生活が始まりました。信州大学には、結城匡啓先生が主催する「技術討論」という学びの場があるそうですね。
「実は、入学するまで技術討論という場があることは知リませんでした。討論に関しては口外しないっていう約束で行なわれていて、中身についてもチームの中で育てて共有するということを大事にしています」
──技術討論という字面(じづら)から想像するに、とても難しいことをやっているように思えます。
「そんなことはありません。自分たちの意識していることを、ビデオを観て、去年と今年で、どこがどのように変化しているかを言葉でまとめる。動きを表すのに各自が工夫した感覚用語を使うのですが、最初の頃は、ほかのチームメイトが共有している言葉の意味がまったくわからず、みんなに質問してばかりでした。それでも、討論を重ねるうちに少しずつ感覚をわかちあえるようになった気がします」
──動きを言葉でうまくまとめられると、チーム力が上がりそうですね。
「チームでは言語の共有ができていて、説明がなくてもお互いに『ああ、あんな感じ』ってわかるものなので。トレーニングやコーチとのやりとりで感覚の枕詞(まくらことば)みたいなものを共有していると楽というか、深い説明がいらないんです」
──あくまでもチーム内で共有されているものだと。
「そうですね。ですから、記者の方たちと話をしていたりすると、(共通言語が使えないことで)自分の感覚がずれてきてしまうこともあります。同じ感覚とイメージでトレーニングしていない人には説明が難しいんです」
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