2021.08.02

金メダリスト・小平奈緒の性格を激変させた「国立大学入試の集団討論」

  • 宮部保範●取材・文 text by Miyabe Yasunori
  • photo by Sankei Visual

文武両道の裏側 第5回 
スピードスケート 小平奈緒選手(相澤病院)
前編

 2018年に開催された平昌オリンピックで、小平奈緒は日本代表チームの主将を務めた。記者会見でチームのスローガンを「百花繚乱」とし、一人ひとりが持ち味を発揮できるよう、チームを鼓舞した。自身も金メダルを獲得し、大輪の花を咲かせた。競技での成績もさることながら、競技後の振る舞いが世界から賞賛を浴び、IOCの公式HPを大きく飾った。

 文武両道の企画に接し、勉強については秀でていないと謙遜する小平だが、いわゆる受験勉強だけが学びではない。学び続け、時分の花で終わることなく、真(まこと)の花として生き続けることこそが小平の信条だ。

2018年平昌五輪、スピードスケート女子500mで優勝した小平奈緒(右)は、敗れたイ・サンファ(左)を抱擁して称えた2018年平昌五輪、スピードスケート女子500mで優勝した小平奈緒(右)は、敗れたイ・サンファ(左)を抱擁して称えた
 平昌でスピードスケート女子500mのレースを制した後、小平はホームで敗れ3連覇を逃した地元韓国のイ・サンファを待ち受け抱擁した。ジュニア時代から切磋琢磨しあった友への労(ねぎら)いは、勝者への喝采を超えた記憶に残る時間だった。

 五輪が掲げる理念がある。共に高みを目指す「エクセレンス」、互いを称え合う「リスペクト」、そして喜びも悲しみもわかち合える「フレンドシップ」だ。レース後に小平がとった振る舞いによって、世界中の人々がオリンピックの掲げる理念を共有した瞬間だった。

 今回は、競技者としての実績のみならず、スポーツを通じて人びとの心を揺さぶる小平の学びの裏側に迫ってみたい。

* * *

──平昌での、あのような振る舞いが自然にできるのは、どうしてなのでしょう。どういう家庭でどのような育ち方をしたのか、とても気になります。

「母はいつもニコニコしていましたね。父も私が宿題をやっているところに、怖いお面をかぶって邪魔をしてきたりして和やかな家庭でした。ただ、そうは言っても、父が電話をしているときにうるさくしたり、場をわきまえずにいると厳しく叱られました」

──越えちゃいけない一線を越えると、怒られたんですね。お姉さんが二人いらっしゃいますが。

「はい。4歳上と5歳上の姉がいて、姉たちは、父の怒りをかわす術(すべ)を知っていたようですが、私にはそれがなく、すべてを真正面から受け入れていた感じです」

──末っ子のほうが、そのあたりの要領はよさそうな気がしますが。

「私は末っ子で引っ込み思案なところがあったので、流せずに受けてしまった。躾(しつけ)という点では、細かく躾けられたということはありませんでした。ただ、なんでも自分でするようには仕向けられていたかもしれないです」

──と言いますと?

「親が送り迎えできない時に、両親は私が人見知りだと知っているのに、車掌さんに声をかけないと乗り換えが難しい駅にひとりでとりあえず行ってごらんと言う。『口があるから大丈夫』って(笑)。幼い頃から、そうやって一つひとつ、小さなことから自分の自信にしていけた。『あっ、私にもできたな』と感じる機会を与えてくれました」