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改革への期待と現実。貴乃花親方
「引退」までの8年間を振り返る (3ページ目)

  • text by Sportiva
  • photo by Kyodo News

 2014年には、貴乃花にさらなる飛躍の時が来る。北の湖理事長から総合企画部長など6つの役職に任命され、「執行部」と呼ばれる協会在勤の理事となった。執行部は、常に理事長と密に連携し、理事会での議題を話し合うなど「理事の中の理事」といえる地位。北の湖理事長は"将来の理事長"として貴乃花を執行部に抜てきしたのだ。

 このとき、「協会ナンバー2」の事業部長に就任したのが八角親方(元横綱・北勝海)だった。

 当時、北の湖理事長が頭を悩ませていたのは、不祥事の再発防止と、本場所の入場者数の激減だった。人気回復のために新たな施策を打ち出したのが八角親方で、女性事務員からの提案でSNSを駆使した情報発信に着手。さらに、女性ファンと人気関取のお姫様抱っこイベントなど、旧態依然としていた大相撲のファンサービス改革を断行した。今ではこうした地道な積み重ねと力士の奮闘が実り、本場所は満員御礼が連続するまでになった。

 一方の貴乃花は、理事会で発言することはほとんどなく、それは、2015年11月に北の湖理事長が急逝してからより顕著になった。八角親方が理事長代行に就き、2016年初場所後の理事長互選で八角理事長の対抗馬として推薦されたが、多数決の結果、6対2で完敗。その後は理事会で何も語らず、意見を求められても口を開くことはなかったという。

「大相撲を変えたい。改革したい」のであれば、理事会で自らの思いを訴えなければ何も始まらないことは明白。それとは真逆の態度に、協会内で疑問の声が高まっていった。

 巡業部長となり迎えた昨年の秋巡業で、弟子の貴ノ岩が横綱日馬富士に暴行を受ける事件が発生した。貴乃花は協会に報告せず警察に被害届を提出。事件が発覚したのが九州場所中というタイミングだった。事件と同時に、協会と貴乃花の対立が騒動となり、結果、今回の退職へとつながった。

 日馬富士への暴行事件に関しては、事態を把握しながら九州場所前に開かれた理事会での議論、対応策、処分などを怠った協会側の危機感の欠如が露呈したといえる。一方で、理事長ら執行部からの事情聴取に対して口を閉ざした貴乃花の姿勢に、支持してきた親方たちも疑問を持ち、心が離れることになった。

 協会の対応は後手に回ったが、その後、再発防止策などを打ち出して現在実行している。しかし貴乃花は協会内で沈黙を続け、テレビ出演をして外に向かってだけ発言をした。

 マスコミを使って協会に揺さぶりをかけ続けた貴乃花は、真っ向勝負を貫いた横綱貴乃花とはまったく違う人格だったのだろうか。そう考えたくもなってしまう8年間だった。 

 引退会見で「子どもたちに相撲を教えたい」と発言した一方で、来夏の参院選出馬が噂される中で馳浩元文科相を訪問する"パフォーマンス"も。「大相撲」と「弟子」への愛情は誰よりも強いと自負する元貴乃花だが、今後の行動でその思いが本物か否かが試されることになる。

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