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【レスリング】世界選手権、若手台頭で吉田・伊調も危うし? (2ページ目)

  • 宮崎俊哉●構成・文 text by Miyazaki Toshiya photo by AFLO

 そんなふたりが階級を下げてから口を揃えて言うのは、「的が小さい」。敵がこれまでより小さいため、タックルに入るポイントが限られるということだ。最軽量48キロ級(当時)でバルセロナオリンピックに出場した大橋監督は、身長が5センチ違えばその差は大きいと指摘する。

「2010年の広州アジア大会、51キロ級から48キロ級に下げて出場した小原日登美はそれで苦しみ、金メダルを逃した。ピッチャーなら、極端に言えば、ストライクゾーンが半分になったような感覚です」

 相手の足首を狙う片足タックルから、バックにまわり、グラウンドで技をしかけるテクニシャンの伊調以上に、フェイントやいなしで相手の頭を下げ、反動で上体が起きたところへノーモーションのスカッドミサイル・タックルをかます吉田にとって、「的が小さくなる」ことは深刻だ。

 さらに問題となるのは、スタミナだ。吉田、伊調ともに、世界一キツいと言われる日本の練習で鍛え抜かれた選手。この夏も新潟県十日町の山あいに佇(たたず)む櫻花レスリング道場「女子レスリング虎の穴」にて、炎天下、急勾配の通称「金メダル坂」を何本も駆け抜けた。練習量は十分だが、年齢から来る衰えに加え、小さい敵にフットワークを使われ、動かされ続ければ、鉄壁のディフェンスにほころびが生じる可能性もある。

 果たして、吉田と伊調が、どのように新階級にアジャストしてくるのか。

 大会4日目、現地9月11日――。満を持してマットに上がった女王たちは、関係者たちの不安を一掃するどころか、会場に詰め掛けた全員の度肝を抜いた。

 顔を強張らせ、「1、2戦は様子を見ていきます」と言っていた吉田は、初戦の中国選手を相手にいきなりフォール勝ち。その後も冷静に敵の動き、時間など試合のすべてをコントロールし、自分のペースで攻めるときには攻め、無理に攻めず、準々決勝・準決勝と続けてフォール勝ちを収めた。そして、昨年の世界選手権55キロ級・決勝で対戦したスウェーデンのソフィア・マットソンとの金メダルをかけた戦いでは、準決勝で痛めた左肩の不安を微塵も感じさせず、まったく危なげない戦いで6-0の完封勝ち。見事、オリンピックと世界選手権を合わせた世界大会15連覇を達成した。伝家の宝刀のタックルにこだわらず、ロンドンオリンピックで開眼した「最後に自分の手が上がっていればいい」レスリングの完成か......。抜群の安定感で、リオデジャネイロオリンピックに向けて死角なしと見えた。

 一方の伊調も、まるで吉田と台本を刷り合わせたかのように、初戦からすべてフォール勝ち。決勝戦でも、ロンドンオリンピック前に吉田から金星を挙げたロシアのバレリア・コブロワ(旧姓:ジョボロワ)に付け入るスキを与えず、完封でテクニカルフォール勝ちを収めた。組み際で絶対的な強さを発揮し、組み手で相手を制してから両足タックルを何度も炸裂。磨きをかけているアンクルホールドをはじめ、多彩な技を繰り出した伊調は、難なく12度目の世界大会制覇を成し遂げた。

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