選手を五輪に送り出せるのか。テコンドー分裂問題の今
『スポーツ紛争地図』 vol.2 第1回
2000年のシドニーから北京まで五輪3大会に出場した岡本依子 我那覇和樹(FC琉球)のドーピング冤罪事件を書いた『争うは本意ならねど』(集英社刊)を上梓した際に筆者には大きな忸怩(じくじ)たる思いがあった(※我那覇選手は当時、J1の川崎所属)。なぜ、自分はリアルタイムでこの問題をウォッチしていなかったのかという確たる恥の意識である。2007年初頭に事件が起こった直後から、真相を追っていればあれほどひとりの選手を孤独に追い込み、苦しませずに済んだのではないか。
拙著に書いたのでその詳細は省くが、我那覇の冤罪をそのまま放置することはサッカーのみならずすべてのアスリートをドーピング違反の恐怖にさらし、ケガや疾病の治療行為を阻害することに直結した。すなわちスポーツを書くジャーナリストとしては、ある意味で代表戦やJリーグの取材以上に重要な選手の人権と健康に関する大きな問題であったのだ。それを迂闊(うかつ)にも見逃していたことを猛省すると同時に、二度とこのような事態を起こさぬためにひとつの企画を立ち上げることにした。
現在、JSAA(日本スポーツ仲裁機構)の仲裁を自動受諾している競技団体は全部で44あるが、それでもスポーツの世界はコンプライアンスよりも組織内、学閥内の序列が優先されて理不尽がまかり通る体質がまだ往々に残る。
今年1月29日には、女子柔道ナショナルチームの15人の選手が日本代表の指導陣による暴力・パワハラ問題を告発していたことが分かった。IJF(国際柔道連盟)までもが調査に乗り出す事態にまで発展、柔道の本家としては世界に恥を晒した格好である。園田代表監督は辞任したが、告発文には目を引く箇所があまたある。
「しかし、一連の前監督の行為を含め、なぜ指導を受ける私たち選手が傷付き、苦悩する状況が続いたのか、―中略―強化体制やその他連盟の組織体制の問題点が明らかにされないまま、ひとり前監督の責任という形を以って、今回の問題解決が図られることは、決して私達の真意ではありません」
根強く残る構造的な問題は「トカゲの尻尾切り」では解決しないことを当事者の選手たちは強く憂いている。
「スポーツ紛争地図」と名づけたこの不定期の連載は、過去に起こったスポーツ界における紛争の検証と新しい事実の掘り起こしを行ない、さらに、現在起きている問題についてはwebの即時性を活かしながら、即座にフォーカスを当てて問題を可視化していこうというものである。問題が起こればメディアの責務として注視していく。
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