【レスリング】生まれ変わった吉田沙保里が『カレリン超え』に挑む

  • 宮崎俊哉●取材・文 text by Miyazaki Toshiya
  • photo by AFLO

オリンピック3連覇後、イベントに引っ張りダコの吉田沙保里。初めての長期休暇は世界選手権後か?オリンピック3連覇後、イベントに引っ張りダコの吉田沙保里。初めての長期休暇は世界選手権後か? 吉田沙保里は悩んだ――。

 ロンドンオリンピック本番を2ヵ月後に控えた5月27日。東京で行なわれた女子レスリングワールドカップ国別対抗団体戦でロシアの新鋭ワレリア・ジョロボアに敗れ、吉田の連勝記録は『58』でストップした。

「得意の離れた間合いから豪快に飛び込んでいく自分本来の姿で戦うべきなのか」

「それとも、タックル返しのリスクをなくし、接近戦でいくべきなのか」

 吉田はふたつの戦術、どちらを選択するか迫られていた。剛速球で三振の山を築いてきた速球派投手が変化球を駆使する技巧派投手に転向するように、アスリートにとって自らのスタイルを変えることは容易ではない。頭では「自分が生きる道」とわかっていても、どこまでも不安がつきまとう。

 しかし、吉田は勇気をもって戦術を変更した。たとえオリンピックまで時間がなく、それを試す機会すらなくても。だが、それを最終的に後押ししたのは、『伝家の宝刀』高速タックルがあったからだ。

 その結果、新戦術はずばり的中した。

 ロンドンでのスコアは、初戦の2回戦2-0(1-0、1-0)、3回戦2-0(1-0、2-0)、準決勝2-0(1-0、2-0)、そして決勝戦も2-0(3-0、2-0)。全試合、まったく危なげのない完封勝ち。オリンピック3連覇を決めた瞬間、吉田はマットの上から世界に向けて、会心のガッツポーズを見せつけた。

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