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町田樹のフィギュアスケート解説が異彩を放つ理由 引退後に研究者となった「プロフェッサー」の膨大な仕事量 (3ページ目)

  • 了戒美子●取材・文 text by Yoshiko Ryokai

── そのような膨大で詳細な資料をひとりで作るとは、驚いてしまいます。でも、これだけの作業をすれば、見えてくるものもまた変わってきそうですね。

「その通りです。こまめにリサーチを行なうことで、選手一人ひとりの努力の軌跡や競技者としての特性などが見えてきます。私のモットーは、目の前のパフォーマンスに『縦糸』と『横糸』を通すことです。

 ジャッジは目の前の演技に点数を与えますが、そこに至るまでには、それぞれの過程があります。そのシーズンだけでも半年ほどの歩みがあるわけですし、なかには4年前から五輪に向けて歩みをスタートさせている選手もいます。その選手が五輪に向けてどういうプロセスをたどってきたかという、歴史的な文脈のなかで演技を語る。これが『横糸』ですね。

 一方で、フィギュアはひとりずつ演技する競技ですが、そのなかにも勝負があります。直前に滑った選手の演技によって、これから滑る選手にプレッシャーがかかることもある。こうした選手同士の関係性や試合の流れなどに着目し、目の前の競技会を細やかに文脈化することが、『縦糸』を通すということです。この両方の文脈を通すことで選手のパフォーマンスをより立体的に伝えられますし、私はそれを行なうことが解説者の仕事だと考えています」

── 過去から現在という「横糸」と、その日の試合のなかでの勝負という「縦糸」。このいわばふたつの軸で見ることで、選手の見方も変わりますか。

「まず、少なくともナショナリズムの視点から脱却できます。私は日本人として日本の選手を応援するというスタンスで解説したことは、一度もありません。もちろん毎回日本の選手を熱く応援し、真心を込めて解説していますが、海外の選手に対しても分け隔てなく、まったく同じ態度で解説をしています。

 観戦する側が日本の選手に親近感を抱くのは、情報がたくさん入っていて、どんな歩みをしてきたかを知っているからです。そうだとすれば、海外の選手の情報もしっかりお伝えすれば、見方や見る姿勢が変わるのではないかと。そうして日本の選手の勝ち負けだけでなく、競技そのものの醍醐味を感じていただけるような解説を心がけています。

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