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「誰にも邪魔されずに突き進む」 宇野昌磨を導く2030年オリンピックへの羅針盤

  • 小宮良之●文 text by Yoshiyuki Komiya
  • 能登 直●撮影 photo by Sunao Noto(a presto)

アイスダンスで公式戦デビューを果たした本田真凜と宇野昌磨 photo by Sunao Noto(a presto)この記事に関連する写真を見る

 11月1日、前橋。東日本フィギュアスケート選手権大会兼全日本フィギュアスケート選手権大会アイスダンス予選会の会場は、異例の熱気に包まれていた。その渦の中心にいたのは、アイスダンスで公式戦デビューとなった"しょまりん"本田真凜、宇野昌磨のカップルだ。

 出場7組中、しょまりんは総合順位4位だったが、他の上位カップルはいずれも2年以上の試合経験者で、悲観することは何もない。

「アイスダンスは年代物」と言われ、練習した年月がものを言う。エッジワーク、トランジション、ユニゾン......その精緻さを研ぎ澄ます競技で、たとえばふたりの距離感だけでも、近づいて演技するのは難しく、遠かったら話にならない。スピードを落とさず、技術精度を落とさず、ふたりで息を合わせる競技だけに、調整の連続で、とにかく時間がかかるのだ。

〈でも、しょまりんだったら何か面白いものを見せてくれる!?〉

 その期待感こそ、彼らの引力だろう。

 デビュー戦後、宇野が抱いた感慨とは―――。

 フリーダンス、しょまりんは最終グループの一番手で、ヴィヴァルディの名曲『四季』を滑り終えている。終盤、春のうららかさがふたりの周りに漂った。頭上からは熱っぽい歓声と拍手が降り注いでいた。

 宇野は両手で本田の手を強く握って、少し揺すった。向き合って見つめ合い、明るい笑顔を浮かべていた。荒く息を吐きながら、"やり切った"という朗らかで清冽な心情が伝わった。

 宇野はデビュー戦が終わったあと、こう振り返っている。

「リズムダンスが終わって、力を出し切ることができましたが、僕たちの望むような点数に反映されなくて......積んできた練習は間違いないし、何回映像を観返しても、自分たちが"好きだ"って思える演技をしていたから、複雑な気持ちになったんです。ただ、大会に出ないとどういうふうに点数をつけられるのかわからない。競技をやるからには、"点数になるところは賢く取りにいく"というのが必要で。それがフリーでは評価されやすいポイント、抑えないといけないポイントを意識して演ずることができました」

 彼は葛藤を明かしていたが、曲げられない哲学があるようだ。

「リズムではたくさん練習を積んで、すべて出し切ることができたからこそ、それを否定したくはないんです。どんな結果であっても、どんな評価を受けたとしても、過程のところを否定してしまったら、たくさんの努力を誰が肯定できるのか。ふたりだけはやってきたことを間違っていなかったと思うべきだし、悲観的には考えたくないんです」

 宇野はデビュー戦のリズムダンスまでの日々を否定したくないのだろう。うまくいかなかったことも含め、それがプラスに転じることを信じている。実際、シングル時代の彼はそうした信念に導かれるようなところがあった。

「リズムダンスは僕がめちゃくちゃ張り切ってしまいました。開始10秒で、(本田に)『落ち着いて』と囁かれて、それで落ち着きました(笑)。気合が入ってしまい、全体的に早乗りして......アイスダンスではもっと落ち着いて息を合わせて、というのが大事だと思いました。ただ、ステファン(・ランビエルコーチ)にも『エネルギッシュだった』と褒めてもらったように、どれも経験だと思っていて。いつかエネルギッシュさが良い形で生きる瞬間もあるはずで、否定するよりも良いところをかいつまんでやっていきたいですね」 

 そう語った宇野は、目標に掲げた「2030年のオリンピック出場」を変えるつもりは微塵もない。目先の点数や周りの意見よりも、ふたりで日々得ている感覚こそが羅針盤だ。

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著者プロフィール

  • 小宮良之

    小宮良之 (こみやよしゆき)

    スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。

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