浅田真央「自分が五輪で滑っているんだ......」 史上初・トリプルアクセル3本を決めたバンクーバーへの軌跡 (3ページ目)
【夢の舞台で決めた3本のトリプルアクセル】
しかし、初めての五輪シーズンは苦しい出だしとなった。
GPシリーズ初戦のフランス大会は、SPとフリーでともにジャンプのミスがあり、2位にはなったものの、世界最高得点をさらに更新したキムに約36点の大差をつけられた。続くロシア大会でも、トリプルアクセルのミスがあり5位に沈み、初めてGPファイナル進出を逃してしまった。
そのGPファイナルでは安藤美姫と鈴木明子がそれぞれ2位、3位となり、安藤がバンクーバー五輪代表に内定。そんな状況で迎えた全日本選手権、浅田が代表を確実にするには優勝が必要だった。
そのSPではトリプルアクセル+2回転トーループのアクセルが回転不足になったが、前の2試合でレベル3だったスパイラルをレベル4とし、確実な滑りで69.12点を獲得して首位発進。「やっとできたという感じ。ショートが一番のキーポイントになってくると思ったので、乗り越えられたのがうれしいです」と表情をゆるめた。フリーは最初のトリプルアクセルを決める。連続ジャンプで回転不足の判定はあったが、合計204.62点で優勝を果たした。
「ジャンプが自分のジャンプではなくなっていたし、スパイラルやスピンの取りこぼしも多かったので全日本選手権までに見直すことができてよかった。ジャンプが決まらないと不安やモヤモヤ感が出てきますが、徐々によくなってきていたので、ジャンプさえ自分のものにすればあとは集中するだけという気持ちだった。よく修正できたと思います」
そして、2010年2月のバンクーバー五輪。
「(年齢制限で)出られなかったトリノ五輪の時はまだ4年間あると思っていたけれど、今になってみれば、すごく早かったと感じます。とくに昨年は、自分の力を全日本でしか出すことができなかったので、その意味ではこれ以上落ちることはないかなと思います。世界選手権では優勝していますが、五輪は初めてなので、今は15歳、16歳の頃のようにワクワクする気持ちになっていて、すごく楽しいです」
浅田は、初の大舞台でその言葉どおりのはつらつとした演技をした。
「ホテルにいる時から緊張していたけれど、アップの時からだんだん落ち着いてきて、滑る前には集中できていました。滑り出してから最後のほうになるにつれて、だんだん『自分が五輪で滑っているんだ』という喜びが出てきました」
そのSPは、最初のトリプルアクセル+2回転トーループを軽やかに決めると、その後のジャンプも着実に決めて、課題にしていたスピンとスパイラルもすべてレベル4にするノーミスの演技。大舞台で73.78点という高得点をマークし、キムに続く2位発進とした。
その結果に「どうしよう、どうしよう」と驚きながら、浅田は「本当にここが山場だと思っていたショートを、無事に滑りきることができたのですごくうれしかった。トリプルアクセルに入る時は震えそうになったけれど、跳べると信じて跳びました。フリーにつながる演技だったと思います」と喜んだ。
そして、自身の歴代世界最高を更新する78.50点を出したキムとの得点差について「いつもは10点とか15点くらい離されているけれど、それに比べれば離されていないので、そういう点では気持ちはすごくラクです」と明るく話した。
2日後のフリー、浅田は最終グループ4番滑走。キムがノーミスの演技をし、得点を150点台に乗せ、合計を自身の歴代世界最高得点を18点以上更新する228.56点にした直後の演技だった。
「歓声がすごく大きくて、ヨナの得点は聞こえなかったけど、すごくいい演技だったのだなと感じました」
こう話す浅田は最初のトリプルアクセルと、次のトリプルアクセル+2回転トーループを着実に決める。そこからも丁寧に滑り、スピンやスパイラルはしっかりとレベル4にする。後半の3回転フリップは回転不足の判定で、少し間を開けながらも2回転ループを2本つけて3連続ジャンプに。しかし、そのあとの3回転トーループは踏み切る前にエッジが氷に引っかかり、1回転にとどまった。「よく覚えてないけど、跳ぶ前に少しガクッとなってしまった。そこはすぐ跳べばよかったなと後悔しています」と振り返るミスだった。
それでも乱れることなく、次のダブルアクセルから立て直し、最後はレベル4のコンビネーションスピンで締めくくったが、演技の直後は少し無念そうな表情だった。
「トリプルアクセルを2本跳べたことは本当によかったなと思いましたが、そのあとから少し緊張感が出てしまって。身体がそれをすごく感じていた。後半にかけて自分を信じて迷いなくいけたけれど、いつもとはちょっと違ったかなと思う。悔しいです」
こう話す浅田の得点はシーズンベストの131.72点。合計は自己ベストの205.50点にして、キムに次ぐ銀メダルを獲得した。SPとフリーを通じてトリプルアクセルを3本成功させたのは、女子史上初の快挙だった。
メダルセレモニー後に、首にかけた銀メダルの感想を聞かれ、「予想していたより、すごく重たいです」と笑顔を見せた浅田は、あらためて五輪の演技をこう振り返った。
「得点は自己ベストなのでよかったけれど、やっぱりミスがふたつあって自分の演技がパーフェクトではなかったので納得はしていないし、悔しさもあります。でも、メダルを獲れたことはすごくよかったと思いますし、会場では日本の方たちもたくさん声援を送ってくださった。それを表彰式の時にあらためて感じて、すごくうれしかったです」
再びこの大舞台に戻り、次は金メダルを獲得したいという気持ちは強くなっていた。
<プロフィール>
浅田真央 あさだ・まお/1990年、名古屋市生まれ。ノービス時代から全日本選手権に出場し、トリプルアクセルを武器に世界のトップで活躍。2010年バンクーバー五輪銀メダル、世界選手権優勝3回など数々の実績を残した。2017年に現役引退後はアイスショーのプロデュースや解説など幅広く活躍し、2025年からは指導者として活動。
著者プロフィール
折山淑美 (おりやま・としみ)
スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。
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