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高橋大輔の生きざまを『氷艶』に見た 月のように未踏の道を照らしつづける先駆者 (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki

【純粋でいつづける特別な力】

 今回の『氷艶』でも、「月に祈るふたり」というシーンがある。満月の夜、高橋が扮(ふん)する温羅(うら)と増田演じる吉備津彦が、それぞれ戦って負った傷跡に手を当て、遠く離れた場所に立ち、同じ月を仰ぎ見る。

「また戦いたい」。その思いは、純粋な共感だったが......。

 温羅の姿は、高橋の現役時代と重なった。フィギュアスケーターとして、全身全霊で立ち向かう輝きは無垢そのもので、だからこそ、彼は掛け値なしに多くのファンに愛された。同じように劇中でも、温羅は側近や婚約者に最後まで心から慕われていたのである。

 トップを駆け抜ける存在は、誰しも"孤独の影"をまとっている。高橋もフィギュアスケート界で先頭を走り続け、現役時代は理解されない部分を抱えていただろう。突き進む姿には気高さが浮かぶが、同時に陰影もできる。それが月光に錯覚させたのか。

 あるいは、その虚構こそが彼のスター性と言えるかもしれない。インスピレーションを与える人物は魅力を放つし、それぞれの物語をつくり出す。そうして湧き上がった熱が、また彼に活力を授ける。月が太陽の光を受け、反射させ、輝くように、だ。

「ピュア」。周りの人間は高橋をそう評すが、まさに"純粋な器"だからこそ、何にでも成り代われる。それは簡単に聞こえるが、特別なことである。なぜなら、何かを身につけ、人と関われば、染まってしまう人がほとんどで、純粋ではいられないからだ。

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