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羽生結弦が『notte stellata』に込めた鎮魂の祈り 野村萬斎と創造した新世界にどよめき (3ページ目)

  • スポルティーバ編集部●取材・文 text by Sportiva
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【オリンピック並みの緊張感】

 そして、2部の冒頭では、『SEIMEI』でコラボを果たした。萬斎が『陰陽師』の安倍晴明に扮して登場し、「天・地・人」「出現、羽生結弦」などのかけ声によって"式神"の羽生を召喚する。そんな演出に、再び会場は大きく盛り上がる。

"晴明"萬斎がリンクの周囲を演舞しながら疾走し、"式神"羽生は氷上で研ぎ澄まされた滑りを見せて華麗な高難度ジャンプを連発。そうして、リンクに灯っていく呪符の五芒星をすべて完成させ、鎮魂を祈った。

「とにかく緊張がすごかったです。『SEIMEI』に関してはとくに、(萬斎の)威厳のようなものを常に背後から感じながら、決してミスをすることができないというプレッシャーとともに、本当にオリンピックかなと思うぐらい緊張しながら滑りました」

 そう語った羽生は、晴明から"役割を与えられた式神"を演じるなかで、いつもとは違う特別な思いを抱いていたという。

「なにかひとつ役割を与えられて、そのひとつの役割をこなして......というような物語を2人のなかで想像しながら、構成を練ってきました。今までの『SEIMEI』の感覚とは違って、ちょっとこじつけかもしれないですけど、自分が今、『notte stellata』というアイスショーに出演させていただいていることとか、自分が生きていることの役割とはなんぞやと、あらためて問われているような気もしました」

 一方の萬斎は、「羽生さんが『陰陽師』を本当に好きなんだなって思いましたね。ちょっとオタクなのかもしれないですけど、僕より詳しくて」と冗談まじりに話す。『SEIMEI』を通じて、10年前の邂逅から羽生の成長を感じたとも言う。

「あの頃は僕としゃべっている時に、彼のなかに内包されているものなんだけど、まだ言語化されていなかった。それが多少、私の言葉も含めて、今までの経験などでだんだんに殻が破れて芽が出て、まさしく今、花開いているな、と」

 報道陣からそんな萬斎の言葉の一部を聞いた羽生は、「ほど遠いので、精進いたします」と謙虚に返したが、一方でこれまでの経験を糧に「しっかり気を張って、プロのスケーターとして、ぶつかっていけるように心がけました」と、充実した表情も随所にのぞかせた。

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