羽生結弦が『notte stellata』に込めた鎮魂の祈り 野村萬斎と創造した新世界にどよめき (2ページ目)
【狂言とフィギュアスケートのコラボで新境地】
フィギュアスケートと狂言のコラボレーションは、観客を新境地へと誘(いざな)ったーー。
2部構成のショーは、羽生が金メダルを獲った2018年平昌五輪のエキシビションでも演じた『notte stellata』からスタート。オープニング後にマイクをにぎった羽生は、「僕たちここにいるスケーターが、一人ひとり輝きながら、皆さんにとっての星になれるように演技していきたいと思います」とあいさつした。
その後、国内外の豪華スケーター陣がそれぞれに熱演すると、1部ラストでひとつ目の佳境を迎えた。萬斎が鎮魂と再生への思いを込めて2011年に初演した、狂言と舞踏音楽を組み合わせた演目『MANSAIボレロ』が、氷上で披露されたのだ。
『MANSAIボレロ』を萬斎や共演スケーターとともに演じたこの記事に関連する写真を見る
スケートリンクの特設舞台で狩衣(かりぎぬ)をまとった萬斎が舞い、その舞台を取り囲むかたちで羽生をはじめ、シェイ=リーン・ボーン、宮原知子、鈴木明子、無良崇人、田中刑事の6人のスケーターが演じた。
萬斎の力強い足拍子に呼応していくように、次第に曲はテンポアップし、踊りも激しくなっていく。そして、最後には萬斎と羽生が同時に高く跳んだ。すると会場にはどよめきが響きわたり、観客は総立ち。大きな拍手が、しばらく鳴り止まない。
『MANSAIボレロ』でともに飛翔する羽生と萬斎この記事に関連する写真を見る
会場のアリーナは震災当時、遺体安置所となった場所だ。萬斎は演技後、「感極まりそうになりました。始まる時に一瞬、霊感ではないですけど、皆さんのなにか魂を感じるというか、思いが私に乗りかかってくるというか。そういうものを背負うのも、狂言に携わる者の使命のような気もして、自分の使命みたいなものを再認識させていただきました」と振り返った。
萬斎によれば、最後の跳ぶ演出は「死からもう一回、次の生へ飛翔する」という思いが込められている。生きるうえでのさまざまなものごとを抽象的な概念としていき、「人間の一生が垣間見える」ような演目に仕上げたという。
震災をきっかけに生まれた『MANSAIボレロ』は、羽生が萬斎とのコラボを望んだ大きな理由のひとつだ。羽生は、萬斎とともに積み重ねてきた練習を振り返り、「この共演でしかできない『ボレロ』になったのではないかなという手ごたえはありました」と話した。
「現実になってみると、まだ夢のようにふわふわした感覚では正直あるのですが、萬斎さん、野村萬斎という存在を受け入れるに値するスケートやショーの構成に近づけたのかなと思えてはいます」と、羽生は共演の喜びを語った。
2 / 4