高橋大輔プロデュース『滑走屋』は新たなフェーズへ 村元哉中、村上佳菜子、友野一希らも進化 (2ページ目)
【氷上で混じり合った狂気と静寂】
冒頭から音と照明に合わせて、それぞれのスケーターが生きものを形成する細胞のように氷上でうごめいた。聴覚を、視覚を敏感に刺激する。スケーターたちがいっせいに円を描くと、その渦に引き込まれそうになる。
その後、リンクではゆっくりしたテンポで、静謐さも感じる。そこから激しく叩くような音が響き、スケーターたちが弾かれたように躍動。タガが外れたように滑り、お互い交差し、カオスが演出される。
こうした演劇は、観客の解釈が許される。それで言うなら、神話の世界で人間が誕生する、とか、何か原始的で正体がわからない産物、を演出したように映った。狂気と静寂が混じり合うのだ。
「『滑走屋』は、他のアイスショーではないムーブがたくさんあって。メインスケーターには、『この曲で滑ってほしい』とリクエストしています。始まりから終わりまで、ひとつの世界観を大切に」
プロデュースした高橋は、そう説明している。昨年の福岡公演の再演なのだが、曲を変更したケースもあり、たとえ同じ動きであっても、その質は大きく変わっていた。メインスケーターのひとりである村上佳菜子も、「風を感じるというか、ダイナミックになりました。前回とは変わっているので、何が違うか発見してもらうのも楽しいかもしれません」と語っていた。
再演は、完成形に近づいた。前回が悪かったのではなく、荒々しいつくりはそれで原初的価値がある。今回は洗練され、新たなフェーズに入ったといったところか。
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