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小説『アイスリンクの導き』第8話 「約束のサイン」 (3ページ目)

「自分のことを、そんなに好きだと思ってくれている人がいるのはうれしいよ」

「もともと、自分がフィギュアを始めたのは、ばあちゃんの影響で。ばあちゃんは長野の人なんですが、生まれは岡山で、翔平さんは年下のアイドルみたいな感じで。自分は父の仕事で日本中を転々としたんですが、子どもの頃は岡山に住んでいたので、翔平さんがオリンピックで優勝してアイスショーで凱旋した時は自分も小学生2年生で会場にいて」

「え、そうなの? 会ったことあったんだ!」

「はい、僕が勝手に会った気分になっていただけですが......」

「あの会場にいたんだね、エキシビで使っていたヒップホップの『白鳥の湖』を演じたんだっけ? そしてオリンピックでも滑っていた『道』をアンコールで滑ったんだ」

「ハイ、でも、その時も僕はおっちょこちょいなところが出て。緊張からトイレに行った後、道に迷って戻れなくなっちゃって、ばあちゃんや他の家族と離れ離れに。こっそり、リンクサイドに近い席にポツンと座っていたんです。でも、翔平さんの番が来て、どうにか家族のところに戻ろうとして、リンクサイドでまごついて。このままだと背伸びして見えるか見えないか、もう一度階段を上がって、と思ったんですが、もう暗転していたんで。係の人が『今だけだよ』って脚立を貸してくれて......」

 宇良は捲し立てるように振り返った。

「優しい人で良かったね」

「はい、おかげで間近で翔平さんを観ることができました。こんな風に滑りたいって思って、すぐに親に頼んで。スケート教室に通って、本格的にやらせてもらうようになりました。自分はおとなしいというか、言いたいことをうまく伝えられないところがあるんですが、その時は親も剣幕に驚いて、促されるように許したそうです」

「自分の演技が、本気になるきっかけになったとしたら、それはうれしいな」

「翔平さんがずっと憧れです!だから緊張しすぎて、最低の結果になってしまって......」

 宇良はそう言ってうなだれた。

「もう、いいって。本当に気にしていないから。宇良君は氷を押せていたし、ストロークの幅も大きかった。深いエッジを意識しているのも伝わってきた。スピードを落とさずにターンし、足を換えてターンし、次の足につなげて、しっかり乗れていた。何より会場にかかる曲のカウントを取って、音を拾っていたでしょ?あれは、なかなかできないよ」

 翔平は褒めた。

「ありがとうございます。うれしいです、めちゃくちゃ。ただ、自分はジャンプに自信がなくって、不安になっちゃうんです。氷の上を滑るのは楽しいんですけど。なんで、こんなに跳べないんだろうって自分が嫌になります」

「練習は積んでいるんでしょ?」

「たぶん、誰よりも転んでいます」

 宇良は真剣な顔つきで言った。それがおかしみもあって、翔平は一つだけアドバイスをすることにした。

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