羽生結弦「もらったものをもっともっと返したい」『notte stellata』の演技に見た心境の変化 (2ページ目)
【前回のショーとの決定的な違い】
ショーは『notte stellata』の羽生ひとりの演技から始まり、続くオープニングの『Twinkling Stars of Hope(輝く希望の星たち)』はカール・ヒューゴがショーのために作曲したもので、出演するスケーターが、まるで流れ星が降ってくるように滑る。『notte stellata』とともにひとつのプログラムとして見える構成は、前年同様だ。
しかし、羽生が踊る『notte stellata』は、昨年とは違う雰囲気を醸し出していた。
このプログラムは2016年3月の世界選手権の会場で、フィギュアスケート界の重鎮でもあるタチアナ・タラソワから「ぜひ滑ってもらいたい曲がある」と声をかけられプレゼントされたもの。サン・サーンスの『白鳥』にイタリア語の歌詞がついたラブソングで、イタリア人歌手のイル・ヴォーロが歌う。
羽生自身、チャイコフスキーの『白鳥の湖』をアレンジした『ホワイトレジェンド』を、東日本大震災があったシーズンのショートプログラム(SP)にしていた。その曲を翌シーズンからエキシビションプログラムにもして、2014年ソチ五輪のエキシビションでも滑っていた。
羽生は「『ホワイトレジェンド』と同様のテーマのプログラムというのが非常に感慨深いというか、自分の胸のなかから湧き上がってくるものがありました」と語っていた。
そしてプログラムを演じるイメージについては、「『ホワイトレジェンド』が黒紫の衣装の暗いイメージで、過去を拾い集めて、『飛び立つぞ!』というところまでを演じるプログラムだったけど、『notte stellata』はその過去を優しく包んで、しっかり前へ進んでいくようなイメージでやっています」と話していた。
それでも、昨年のショーでは、苦しい過去や自分の感情を心の奥深くにため込んでいるような滑りで、静ひつななかにも重苦しさがあった。だが今回の滑りは柔らかく、最初から優しさがにじみ出ている感覚があった。イル・ヴォーロの歌声自体にも、希望への輝きを感じさせているような思いに包まれた。
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