羽生結弦「もらったものをもっともっと返したい」『notte stellata』の演技に見た心境の変化 (4ページ目)

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【過去と未来の希望を表現】

 前半の羽生ひとりで滑る部分はシェイ=リーン・ボーンに振り付けをしてもらい、大地とのコラボレーションとなる戦いの部分は、大地の舞台の振り付けをしている麻咲梨乃に依頼する冒険的なものだった。

「前半と後半のギャップがあまりないようにすることは、意識して自分のなかで滑り込んできたつもりです。陸上の振り付けになると前後の動きの奥行きがなくなったり、動き自体が小さくなりがちでしたが、それを経験することであらためて、フィギュアスケートってもっとこういうふうに表現しなきゃいけないんだな、とか、フィギュアスケートでは、もっとこういう表現にすれば陸上っぽくもなるし、逆にフィギュアのよさも出る、ということも頭のなかでいろいろ計算できました」

 そして、昨年は『春よ、来い』で表現した最後の「希望」への思いは、今回は新プログラム『ダニーボーイ』で伝えた。

「希望のなかには過去もあるし、未来もある。過去の希望は過去のうれしかったことだったり、戻りたい過去だったり。震災前の思い出や希望に手を伸ばすところもある。また逆に、未来に対して手を伸ばして、未来の希望に向かって祈りを捧げるシーンもある。それを、『現在』と設定したリンクの真ん中を起点にし、ステージから見て左側が過去で、反対側が未来というイメージで、デヴィッド・ウィルソンさんに振り付けをしていただきました」

 新たな挑戦をしながら、自分の今の気持ちをショーという形で伝えたいという思い。2年目の『notte stellata』は、それが明確に伝わるステージだった。

著者プロフィール

  • 折山淑美

    折山淑美 (おりやま・としみ)

    スポーツジャーナリスト。1953年、長野県生まれ。1992年のバルセロナ大会から五輪取材を始め、夏季・冬季ともに多数の大会をリポートしている。フィギュアスケート取材は1994年リレハンメル五輪からスタートし、2010年代はシニアデビュー後の羽生結弦の歩みを丹念に追う。

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