『週刊少年ジャンプ』のフィギュアスケート漫画・作者が挑むペア競技の本質「少年誌だけど女性の視点を理想化しない」 (4ページ目)

  • 山本夢子●取材・文 text by Yamamoto Yumeko

【ペアという競技の本質を描きたい】

ーー衣装もいろんな選手のものを参考にされているのでしょうか?

 そうですね。いろんなタイプの衣装を見つけるたびに、資料としてストックをして、あとは曲のイメージに合わせて考えています。衣装を考えるのは大変ですけど楽しいです。曲の個性を考えながらデザインを考えたり。練習着の絵が多いので、衣装を描ける回は楽しいですね。

ーー主人公の峰越隼馬の靴が白なのはなぜですか?

 最初は男子選手の靴が黒だと知らずに、白で描いていたんです。気づいてから黒にしようかなとも思ったんですけど、「男の子だからこう」としなくてもいいのかなって。だから隼馬は白だし、ペアの先輩女子の夏日は黒なんですよ。

 男女の違いはあるし、お互い役割分担をして頑張る競技でもありますが、ならう必要のないものはならわなくてもいいかなと思って。隼馬がそういうのを全然考えていないところから始まるキャラなので、性格の表現としてちょうどいいかなと思ってそのままにしています。

ーーテレビ観戦からアイデアを得ることもあると伺いましたが、具体的にどんなところからヒントを得るんですか?

 たとえば、(ソチ五輪日本代表の)町田樹さんは解説で曲の話をされることが多いと思っていて、曲や振り付けの背景を解説してくださるから、漫画で使えるかもと参考にしています。あと、配信だとキス&クライの会話が全部聞こえるので、選手とコーチの会話を聞いて、リアリティの底上げをさせてもらったりしています。

ーーペアのすばらしさを伝えるために考えていることはありますか?

 すごくシンプルですが、ペアで人を持ち上げるすごさはしっかりと描きたいと思っています。少年漫画では、すぐに技ができるようになって試合に出る場合もありますが、まずペアの技って本当にすごくない?と。陸上ですら人を持ち上げるのは大変なのに氷の上でやっているし、靴には刃物がついている。

 危険性、命も含めて、「重み」のあることをやっているスポーツだということを伝えたい。現状、日本では王道ではないペアの道に進む決断をする感情の移り変わりを丁寧に描きたいと思っているので、そこを見てほしいなと思っています。

 また、実際の選手にお話を聞いて、とにかくみなさん異性の立場に立ったうえで自分がどうすべきかをお話しされてたことがすごく印象的で、ペアという競技のひとつの本質のように感じました。

 なので作品においても、少年誌ではありますが、男性目線だけでなく、主人公や多くの読者にとって異性である女性の視点を、理想化せずできるだけ現実的な感情として描いています。視点の違いから生まれる衝突や歩み寄りを通してふたりで前へ進んでいく、ペアという競技の魅力を伝えられればと思ってます。

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【ストーリー】峰越隼馬は、幼い頃、偶然目にしたフィギュアスケートの大会で圧倒的な演技をみせる早乙女綺更に憧れる。しかし、天才少女と将来を渇望されていたにも関わらず、綺更は突然姿を消してしまうーー。憧れの消息がわからなくなって3年後、中学3年生になった隼馬は偶然にも綺更に出会う。綺更と共に滑りたがる隼馬に、綺更が示したのは二人でペアを組むという提案。運命の再会を果たした二人の行く先はーー!? 気鋭の新人作家が描く、新時代ペアフィギュアスケート物語開幕!

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著者プロフィール

  • 山本夢子

    山本夢子 (やまもと・ゆめこ)

    スポーツライター。青森県八戸市出身。5歳からフィギュアスケートを習い始め、高校卒業まで選手として各大会に参加。その後、渡米し大学を卒業、就職。帰国後は、コピーライターとして広告制作に携わる。2005年からフリーランス。現在はライターとしてフィギュアスケートの専門誌を中心に執筆中。

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