なぜ宇野昌磨はプレッシャーを超えられるのか? 問題を解決していく王者のアプローチ
【唯一の100点台で首位発進】
12月21日、長野。全日本選手権の男子シングル・ショートプログラム(SP)で、宇野昌磨(26歳/トヨタ自動車)はひとりだけ100点台をたたき出したが、高揚感は見せなかった。他の選手たちが拳をつくってガッツポーズを連発させていたのと、一線を画していた。
全日本選手権SPの宇野昌磨この記事に関連する写真を見るーー(演技後も)表情は変わりませんでしたね?
十分に高得点が期待できたにもかかわらず、むしろ考え込むような顔つきだったことで、記者から質問が飛んだ。
「6分間練習からずっと不安定だったので。いい演技でしたが、もう一回やったら、悪い演技になりかねない、っていうのが正直なところです。そのなかではよくやったなって。まあ、ショートはいつも『よくやった』って言っているような気もしますが」
彼は苦笑混じりに答えた。
冷静さで情熱を抑え込む様子に、王者の理由が浮かんだ。
男子シングルのSPは、予想どおりに熱戦となっている。第4グループ、壷井達也がトップに躍り出たが、続く山本草太も94.58点とハイスコアをたたき出し、大きく上回った。その後、三浦佳生、佐藤駿も肉薄したが、スピンのノーカウントやエッジエラー判定で思ったほど得点が伸びず、舞台は不穏な緊張感も帯びてきていた。
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著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。