宇野昌磨の新境地 師匠の「魔術」や高橋大輔の滑りを新プログラムに落とし込む (2ページ目)

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

【"面白い"スケートの体現へ】

 昨シーズン、宇野は競技者として無敵に近い状態になっている。

 今年3月、世界選手権では本人が「今年一、ひどい状態」ともらしたほどだった。大会公式練習では、約10日前に痛めた足首を再びひねっていた。類を見ないほどジャンプの成功率も低かった。

「悪いからと言って、救済もない。今の自分は何ができるか」

 そう語る宇野は追い込まれていたはずだが、どこか超然として見えた。

「全部のジャンプの調子が悪いので、靴の(問題の)気もするんですけど、どうすることもできない。やるって覚悟を決めて、自分で見つけるしかない。逆境に強いかはわからないですが、こういう経験は過去にもあって、痛いなかでの練習もやっていました。

 当時は身のためにならないって思ったこともありますが、おかげでどこをかばって、どういうジャンプになるか、予想がつきます」

 競技者として培ってきた経験が、彼を導いた。

 実際、ショートプログラム(SP)で宇野は圧巻の演技を見せている。シーズン世界最高となる104.63点で堂々の首位に立った。その勢いでフリーも200点に迫り、総合301.14点で堂々の世界連覇を成し遂げた。

 フランスのケヴィン・エイモズ、韓国のチャ・ジュンファン、アメリカのイリア・マリニンが高得点をたたき出したなかでも、それを上回るスコアで完全優勝だった。

「もう一回やったら、絶対に無理という演技をショート、フリーともにできました。演技としてはまだまだやれたと思いますけど、今、何ができるかと言われたら、これ以上はできない。そう言いきれる演技でした」

 土壇場で力を出しきれる姿こそ、真の王者だった。競技の枠を超え、表現者として特別な境地に入ったのだろう。勝敗への執着以上に表現の深淵を目指すような言葉を口にしていた。

「これまで(世界選手権まで)は競技者として、いつも次の試合って考えてきました。2年前までは成績が出ず、まず成績を出したくて。今は成績が出てうれしいですが、成績を目指したスケートになっているな、というのもあります。

 悪いことではないですが、高橋大輔選手のような"面白い"と僕が憧れたスケートが体現できているのか」

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