宇野昌磨のコーチ、ランビエルと高橋大輔の「対決」長い年月をかけて身につけた技の数々 (3ページ目)
【表現者が広げるフィギュスケートの道】
日本のフィギュアスケートをけん引し、背負ってきた者たちが切磋琢磨することで、そこに続く者がいる。
キッズスケーターとして登場した小学生のカップルは、「(村元と高橋の)かなだいに憧れて」アイスダンスをスタートさせたという。『カルメン』を懸命に演じきり、ファンの拍手を浴びた。晴れ舞台に立った昂揚は、ふたりの成長の触媒となるだろう。
この日、かなだいはプロ転向後、初めて新プログラムを披露していた。
「アイスダンスのおもしろさを伝えたい」
かつてふたりはそう話していたが、たった3年で全日本王者となり、世界トップテンに迫り、道標になっている。種目を超え、フィギュアスケート人気の幅を広げた功績は大きい。
ショーは後半、シェイ=リーン・ボーンが南アフリカW杯の大会ソングでシャキーラの『Waka Waka』を踊って、リンクを楽しい空間につつむ。名手ジェイソン・ブラウンは『Adios』を滑り、フィギュアスケートを生きるために彫られたような肉体で、万感のスピンを見せた。鈴木明子は『Yo Soy Maria』でタンゴを情熱に踊っている。
長い年月をかけ、身につけた技はどれも珠玉だった。
「明日の活力となるようなショーに」
荒川はそう語っていたが、きっと勇気を与えるだろう。スケーターたちは熱気のなかでさらに輝きを増す。そこに響くのはフィギュアスケート賛歌だ。
シングルからアイスダンサーに転向した高橋にインタビューした時、彼が熱っぽく言っていたことがある。
「舞台(『氷艶』)を経験し、他ジャンルの人とのコラボで、スケートの可能性はまだまだ広がる、と感じました。自分はできる限り長く、スケートで表現していきたい。人と組むことで、いろんな伝え方ができるようになるはず。僕は滑り続けますよ。(スケートに関して)競技者か、プロか、その境をなくしています。どっちか、というのはありません」
氷上の表現者としての矜持が、フィギュアスケートの道を広げ続けるのだ。
著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。
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