宇野昌磨のコーチ、ランビエルと高橋大輔の「対決」長い年月をかけて身につけた技の数々
【ランビエルと宇野昌磨に共通する気配】
2006年トリノ五輪で銀メダルを獲得し、世界選手権は2005、2006年と連覇するなど、かつて一世を風靡したステファン・ランビエル(スイス)の流麗なスケーティングは、健在だった。
『フレンズ・オン・アイス』公開リハーサルに登場したステファン・ランビエルこの記事に関連する写真を見る 体のラインだけで静ひつさを醸し出す。『交響曲第5番 アダージェット』のピアノの旋律に、身をゆだねる。鍵盤をなでるような丁寧さと大きな体躯(たいく)を活かしたダイナミックさで、丹念に音を拾い上げる。
上半身と下半身が、別の生きもののように動いて、たなびくシャツの袖や目にふわっとかかる前髪すら、演出のように映った。スピンの安定感と速さは傑出、芸術性に通じていた。最後のポーズ、振り上げた腕やひねった首の角度が何とも言えず美しかった。
感極まった拍手のなか、既視感が浮かぶ。
現在の世界王者である宇野昌磨に通じる気配があったのだ。
言うまでもなく、ランビエルは宇野のコーチであり、窮地から救い、羽ばたかせた師匠である。肩甲骨の使い方ひとつで背中は美しく見えるし、指先にまで神経を通わせることで演技の引力は増すわけだが、伝承されるものはあるのか。
ふたりは体格も年齢も違うし、ランビエルだけの色があるように、宇野だけの華やかさもあるが、どこか似た気配をまとうのだ。
師弟関係のふたりだが、フィギュアスケーターたちはそうやって何かをシェアし、受け継ぐのだろう。
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プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。