村元哉中・髙橋大輔「まだ物語の途中」と臨んだ今季。仕上がりの早さの裏にストイックな共同生活があった (2ページ目)
まだ第1章を終えていない
今年5月、現役続行を公式に発表する直前のインタビューだった。かなだいはすでに決断を下し、リラックスしていた。その様子はみずみずしく、若々しく、大げさに言えば生まれ変わったようだった。それだけ、思いを新たに踏み出していたのだろう。
「四大陸選手権、世界選手権を戦って、終わったあとも......(3〜4秒の沈黙のあとで)第1章を終えていない感じ?」
髙橋はそう言って、現役続行の理由を明かした。
「まだ物語の途中のページで。なんて言ったらいいんですかね? ここでやめてもいいんですけど、(物語を)書き終えていないなって。だから、覚悟をするっていうよりは、もう少し続けられるかなってくらいで。流れに流されたくはなかったので、一回リセットして、スケートから2週間くらい離れて、どんな気持ちになるか。それで気持ちは変わらなかったし、それは『やれ』っていうことかなって」
半端な気持ちでは、リンクに立てない。その峻厳さだけが、表現者としての厚みを生む。自分と向き合う必要があった。結果として、2022−2023シーズンに向けた準備は遅れた。5月下旬に振り付けや曲をリストアップしたばかりというスロースタートだった。それだけに、GPシリーズ初戦でこれほど仕上がっていることのほうが驚きなのだ。
髙橋は覚悟という表現を使わなかったが、ふたりが腹をくくっているからこそ、その演技が観衆を魅了するのだろう。
「私は(3月の)世界選手権に、"最後の演技かもしれない"と挑んでいました」
村元は心中をそう明かしていた。
「私の場合、引退はしていませんが、2シーズン、氷から離れた当時は毎日が気持ち悪く、廃人生活で(笑)。(髙橋)大ちゃんとのアイスダンスに『イエス』って言ってなかったら、私のスケート人生は終わっていたと思います。だから、もし大ちゃんが現役続行しないって決めたら、次のパートナーは探さないって決めていて、腹はくくっていました」
かなだいは、アイスダンサーとしての時間を実直に生きる。
2 / 3