羽生結弦「僕の人生史上でも初めてのこと」に直面。アイスショーで模索する新たな自分 (5ページ目)
『春よ、来い』から見えた未来
だが、次に演じた『春よ、来い』では、プロジェクションマッピングの演出で羽生の未来を見た気がした。2018年の「ファンタジー・オン・アイス」で、ピアニストの清塚信也氏とのコラボレーションをきっかけにエキシビションプログラムとして採用し、以降も毎シーズン、大切に滑ってきたプログラムだ。北京五輪では、エキシビションで舞った。
MKIKO氏によるプロジェクションマッピングは、羽生が滑るなかで発生させる空気の振動を波動のように伝え、その光景をさまざまに変化させた。そして、深いハイドロブレーディングで手のひらに集めた氷片を空にまき散らすと、氷上は花で埋まった。
これまでの『春よ、来い』はいつか終わる冬のなかで、春の訪れを待ち焦がれる思いが伝わってくる演技だと感じていた。しかし、この日の『春よ、来い』は、羽生の滑りが生む空気の振動が周囲を変化させて地と空気をゆるめ、春を訪れさせたと感じさせる演技だった。自分の行動で何かを変えていくーー。それこそがプロとしての羽生がなし遂げようとしていることなのだろうと、あらためて思わせた。
この記事に関連する写真を見る プロアスリートとしての意識を持って進む羽生の道は、これまで誰も踏み出したことがない、何の標もない道だ。だからこそさまざまなことを考え、想像し、創造しなければいけない。そんな難しい状況を羽生はこう話した。
「プロ転向の記者会見でも言ったかもしれないですけど、プロだからこその目標というのは、具体的には見えていないんです。そういうのは、僕の人生史上でも初めてのことなんです。今まで、4歳の頃から常に五輪で金メダルを獲るという目標があったうえで生活してきたので、今はちょっと宙ぶらりんな感じがしています。
ただ、まずはこの『プロローグ』を成功させるために毎日努力してきたこととか、今日は今日で一つひとつのジャンプだったり演技だったりに集中していったこととか。たぶん、そういうことが積み重なっていって、また新たな羽生結弦というステージにつながっていったり、新たな自分の基盤ができていったりするかなと思うので。今できることを目一杯やっていって、フィギュアスケートの限界を超えていけるようにしたいと思います。それがこれからの僕の物語としてあったらいいなと思います」
製氷の中断もなく、ひとりで滑りきった90分間のアイスショー。羽生は新たな自分の理想を見つけるための旅立つ日にした。
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