羽生結弦が平昌五輪で見せた「奇跡の舞」。そして朗らかに語った4回転アクセル挑戦の理由

  • 折山淑美●文 text by Oriyama Toshimi
  • photo by JMPA

<冬季五輪名シーン>第10回
2018年平昌五輪 フィギュアスケート男子・羽生結弦

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いよいよ2月4日からスタートする北京五輪。開幕を前に、過去の冬季五輪で躍動した日本代表の姿を振り返ろう。あの名シーンをもう一度、プレイバック!

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2018年平昌五輪後、記者会見に応じる羽生結弦2018年平昌五輪後、記者会見に応じる羽生結弦この記事に関連する写真を見る

【自分に「よく頑張った」】

 2018年2月17日、平昌五輪フィギュアスケート男子シングル、フリー。演技を終えた瞬間に指で「1」を示し、勝利を確信していた羽生結弦。合計得点は317.85点。最終滑走の宇野昌磨の得点が出て、羽生の金メダルが確定すると涙をボロボロと流し始めた。

「フリーは気持ちよく締めくくれたと思います。あまり覚えてないけれど、最後にガッツポーズをしたし、氷に『ありがとう』と言った。金メダルが決まった瞬間は泣いていたから、やっぱり満足していると思います。ソチ(五輪)とはそこが違うかなと思います」

 フリー最後のジャンプの3回転ルッツは、着氷が詰まったが耐えた。その瞬間、羽生の心のなかに広がったのは「よく頑張ってくれた」という、自分の右足への感謝の思いだった。3回転ルッツは痛みと闘いながら跳ぶのがもっとも困難なジャンプ。羽生はぎりぎりで跳べるようになった状態だった。

 前年11月に痛めた右足首の状態は、想像以上に深刻だった。発表された靱帯損傷以外の部位の損傷の可能性もあり、詳細な状態や最適な治療法も不明な状態。注射は打てる部位ではなく、痛み止め服用がなければ3回転ジャンプを跳べないほどだった。

 そうした状態でも「今できること」に徹して演じた2月16日のショートプログラム(SP)は、"奇跡の舞"と言えるような演技だった。静謐(せいひつ)な滑り出しから、終盤のステップで始まる盛り上がりへ向けて、気持ちを冷静にコントロールしていた。

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