2019.12.10

羽生結弦は前を向く。トリノで語った4回転アクセルへの思い

  • 折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

グランプリファイナル後、現在の考えを語った羽生結弦 イタリアのトリノで行なわれたグランプリ(GP)ファイナル、男子フリーから一夜明けた12月8日。羽生結弦は6日の公式練習で4回転アクセルに挑戦した理由を明らかにした。

「正直な気持ちを言ってしまうと、ショート(プログラム)が終わったあとにわりと絶望して......。4回転サルコウと4回転トーループのコンビネーションの構成の『秋によせて』の、あまりのハマらなさを『なんでだろう』とずっと考えていたんです。でも(ネイサン・チェンとの)13点差というのは、(フリーで)4回転ジャンプを1本増やしたからといって縮まるものではないということはわかっていたし、ネイサン選手が(フリーで)4回転を5本跳んでくるということもわかっていた。

 それに、こんなプレッシャーでは彼は絶対に潰れないという強さも感じていたので、(逆転は)すごく難しいだろうなと考えていました。だからこそ、ここで何か爪痕を残したいという気持ちがあって、いろいろ考えたんです。いろんなことが重なって起きたけど、もしそこに意味があるのだったら、ストッパー役のコーチがいない今だからこそ、自分だけで決められる今だからこそ、ここで4回転アクセルの練習をやってもいいんじゃないかなと思ったんです」

 ジスラン・ブリアンコーチは羽生と一緒に乗り継ぎ空港のフランクフルトまで来たが、そこでパスポートの盗難に遭い、一度カナダに帰国。パスポートを再発行してから、再びトリノに向かっていた。羽生は、フリーを前にブリアンコーチがトリノに到着したと聞いた時は、「すごく安堵した」と語っている。

 羽生は、もしコーチが帯同していれば、公式練習で4回転アクセルの練習をするという判断は「なかった」とも言う。そして、その完成への過程の一部を見せるということは、彼としては「絶対に完成させる」という宣言でもある。

「何が大事なんだという話になった時には、絶対に試合の方が大事です。それは自分でもわかっていました。でもこの絶望的な状況で、『ここで何かを残さなければいけない』という使命感がすごくあったんです。NHK杯の時に話した自分の理想でもある、自信の塊のようだった9歳のころの自分から見た時に、胸を張って自分はここで何をやったかと言えるようなものを残したかった。