2019.11.27

ファイナルで笑えるように。
紀平梨花は粛々とレベルアップに取り組む

  • 小宮良之●取材・文 text by Komiya Yoshiyuki
  • 能登 直●撮影 photo by Noto Sunao(a presto)

 NHK杯、2日目のフリースケーティング。紀平梨花(17歳、関西大学KFSC)はリンクサイドで、濱田美栄コーチと”儀式”をすませた。両手を合わせ、見つめ合い、おでこを近づけ、花が咲き誇るように顔を綻ばせる。それはルーティンに近いだろう。

NHK杯は2位に終わった紀平梨花 その笑みは、”演技者”としてだ。

 しかし、リンク中央で最初のポーズを取る瞬間だった。紀平は刹那、自然に笑みを洩らしていた。”私の演技を見せるわ”という気概に似た野心が、笑みと一緒に溢れ出ていた。吐き出した息とともに肩の力が抜ける。血が脈打つ音が聞こえそうで、あきらめるとか、恐れる、怯むとか、一切ない。心から勝負を楽しんでいた。

 紀平はひとりのアスリートとして、立ちふさがる敵が出てきたときのほうが強いタイプだ。

  NHK杯、紀平は2位に終わっている。同じグランプリ(GP)シリーズ、スケートカナダに続いて、優勝することはできなかった。

 今シーズンは、ロシアの若手3人の強さが際立つGPシリーズになっている。スケートカナダでは、4回転を軽々と跳ぶアレクサンドラ・トゥルソワが優勝。NHK杯では、高さのあるトリプルアクセルと、高難度のコンビネーションジャンプで、アリョーナ・コストルナヤが頂点に立った。また、アンナ・シェルバコワも4回転を武器に大会を席巻し、この3人が全6回のGPシリーズを独占した(それぞれ出場した2大会ですべて優勝)。

 昨シーズンのGPファイナル王者である紀平は、NHK杯でシーズンベストスコアもたたき出し、2年連続での出場を決めた。にもかかわらず、ロシア勢の後塵を拝することになった。ファイナルに向け、劣勢に立たされたとも言える。

「細かいミスがなかったとしても、1位になれたかどうか。ファイナルに向けては、厳しい戦いになるのは間違いないです。昨シーズンと同じ演技をしても(優勝に手が)届かないと思います」

 紀平はNHK杯後、正直な告白をしている。

 もっとも、白旗を上げたわけではない。むしろ、自分より年下の選手たちとの真っ向勝負を楽しみにしているように映った。成功率の低さを考慮して封印した4回転サルコウを、ファイナルでは発動させるはずだ。