羽生結弦と町田樹、これから始まるライバル物語
3月28日の世界フィギュアスケート選手権男子フリー。羽生結弦の体力はギリギリだった。演技終了直後に荒い息を吐いて氷の上に座り込み、しばらく動けなかった。
結果は191・35点、合計282・59点で2位の町田樹(たつき)を0・33点上回り優勝を決めた。試合後、勝因を問われた羽生は「意地ですね......。意地と気合いです」と言い切った。
優勝は羽生。2位に町田。世界選手権での日本人男子のワンツーは史上初。3位はハビエル・フェルナンデス 金メダルを獲得したとはいえ、フリーで満足な演技ができず、悔しさの方が大きかったというソチ五輪。だからこそ彼は、五輪金メダリストとして真の王者らしさを見せなければいけない立場にあった。自分で自分を追い込み、プレッシャーをかけた。体の中に溜まっていた疲労もあったが、羽生はフリーを全力で滑り切った。
「内容もけっこう危ないシーンがたくさんあったし、ポイントも(2位と)0・33点差。本当に危ない試合でしたけど、楽しかったです」
緊張もあり、勝たなければいけないという思いも強かった。だが、五輪金メダリストとして初めて経験する"追いかけられる立場"を楽しめたという。プレッシャーより、「絶対に勝ってやる」という気持ちの方が強かったと笑顔で話す。
2日前のショートプログラム(SP)では、誤算があった。ソチ五輪で世界最高得点の101・45点を出したプログラムの冒頭、普通にやれば跳べると自信を持っていた4回転トーループでまさかの転倒をしたのだ。しかも、判定は回転不足。
「いつもどおりというか、このプログラムを試合でやるのは最後なので、内容はともかく楽しもうと思っていました。4回転トーループのアンダーローテーションは悔しいですね。試合でも練習でもSPはミスなくやってこられていたので......。ちょっとした過信というか、気のゆるみがあったのかなと思います」
羽生は「慢心があった」とも言う。常に高得点を出し、完全に自分のものにしたといえるプログラム。滑り出した直後の彼の表情からは、「最後だから存分に魅せてやろう」という思いの強さが伝わってきた。そんな思いの強さが、体の動きを少しだけ狂わせたのかもしれない。
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