鈴芽は地元の工場から東京女子プロレスのリングへ「こんなに全力で生きている世界があるんだ」 (3ページ目)

  • 尾崎ムギ子●取材・文 text by Ozaki Mugiko

 全力で生きる選手たちを見て、自分も何かに全力になってみたいと思った。それが何か最初はわからなかったが、東京女子プロレスを見ていくうちに「私はプロレスがやりたいんだ」と気づいた。

 2018年5月、辰巳リカに手紙を書いた。「会社を辞めて、プロレスラーになりたい」――。

「私が挑戦できないタイプの人間だということは自分が一番よくわかっていたので、逃げ道を断ちたかったんですよね。一番尊敬している人に決意を伝えて、"背水の陣"というか、やるしかない状況を自分で作りました。リカさんからしたら、すごく重い手紙だったと思います(笑)」

 両親には入門が決まったあとに報告した。「もう決めたのならしかたない」と言われたというが、娘の初めての自己主張。さぞかし驚いたことだろう。どこか嬉しさもあったかもしれない。

【憧れの人の対角に立ち、「私、プロレスラーになれたんだ」と実感】

 2019年1月、東京女子プロレスに入門。練習が始まるとロープワークや受け身で体中にアザができたが、毎回少しずつできるようになるのが嬉しくて、練習は楽しかったという。憧れの世界に近づいている喜びもあった。

 8月25日、後楽園ホールでデビュー。同期の舞海魅星(現MIRAI。マリーゴールド所属)と組み、中島翔子&里歩組と対戦した。セミファイナル前の第6試合。通常、デビュー戦は第1試合になることが多く、鈴芽は異例のケースと言える。それだけ期待されていたのだろうし、彼女は期待を上回る試合をした。しかし、試合後は涙が止まらなかったという。

「やってきたことを100%は出せなかった。本当に悔しかったです」

 9月15日、両国KFCホール大会にて、デビュー3戦目にして憧れの辰巳リカとのシングルマッチが組まれた。プロレスラーを目指すきっかけとなった、憧れの辰巳リカ。鈴芽はエルボー、クロスボディー、ドロップキック......臆することなく攻めた。

「憧れの人の対角に立って、そこで初めて『私、ちゃんとプロレスラーになれたんだ』という実感が湧きました。入門した時に決めていたことではあるけど、あらためて『ファンのままじゃいられない』という覚悟もできた」

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