井上尚弥のネリ対策の相手をした、いとこ・浩樹は「想定どおり」ダウン後の戦いは「人間離れしていて恐怖すら覚える」 (4ページ目)

  • 篠﨑貴浩●取材・文 text by Shinozaki Takahiro

――試合中に尚弥選手が、ノーガードで自らのアゴをポンポンと叩いてパンチを誘うシーンもありましたね。

「あれは観ている人のための"エンタメ要素"というか、魅せることも意識してのことだと思います。あとは心理戦、駆け引きの意味もあったと思いますが、余裕を感じられる戦い方でしたね」

【尚弥がネリ対策で「左のカウンターが入ると思う」】

――6ラウンドのフィニッシュシーンは、ネリをロープに詰めて、右アッパーからの右ストレートでした。あまり見ないコンビネーションだと思うのですが、いかがでしたか?

「力みがなく、モーションも小さいパンチであれだけの衝撃。驚きのフィニッシュシーンでした。拳の重さをそのままぶつけている感じ。脱力しているからこそ生まれたインパクトの強さなんでしょうが......ネリは明らかにダメージを蓄積していましたし、普通であれば強く打っていきたくなる場面だと思うんです。そんな状況でも、あんなコンパクトなパンチを打てる冷静さは、完全に常軌を逸してます(笑)」

――映像をよく見返すと、尚弥選手が右アッパーから右ストレートを打つ間に、ネリは左ボディーを狙っていたようにも見えます。

「尚弥さんは右アッパーを打ったあと、左腕でネリの左ボディーをブロックするような形になってから、右ストレートを決めましたね。もしかしたら、体が覚えていた動きなのかもしれません。普段のミット打ちで反復していた動作が自然と出た感じでした」

――試合前には、同じサウスポーの浩樹選手とネリ対策を行なったとも聞いています。

「時間が空いた時に何回かやりましたね。グローブをつけて、軽く触るくらいでしたが。僕相手にネリがどう動くかをシミュレーションして、『こう打ったらどうかな』『こうやられたら嫌かな』と確かめる感じでした」

――そこでの練習が、試合で活かされた場面はありましたか?

「尚弥さんと向かい合うとわかるのですが、相手が入り込めない、絶妙な距離感があるんです。ネリの戦い方は歩きながら前に出てくるようなスタイルですが、尚弥さんに対しては通用しないだろうと思っていました。練習の時も、尚弥さんは『もしネリがこれまでどおり、歩きながら雑に攻めてくるのであれば、左のカウンターが入ると思う』といった話をしていましたね」

―― 一般的に、オーソドックスの選手がサウスポーの選手と戦う際には、左フックを打つ際に、相手が前に出している右手が邪魔になりますよね?

「そうですね。特別に入りやすいパンチではありません。相手がジャブを打ってきた時には入るのですが、構えている時は右手でガードされている状態ですから。それでも尚弥さんは、2ラウンドにネリが左を大きく振って雑に入ったところに、カウンターを合わせていました。そのラウンドと5ラウンドに奪ったダウンも左フックでしたが、まさに想定どおりだったんだと思います」

(後編:井上尚弥と中谷潤人が戦う可能性をどう見る? 自身の今後についても語った)

【プロフィール】
■井上浩樹(いのうえ・こうき)

1992年5月11日生まれ、神奈川県座間市出身。身長178cm。いとこの井上尚弥・拓真と共に、ふたりの父である真吾さんの指導で小3からボクシングを始める。アマチュア戦績は130戦112勝(60KO)18敗で通算5冠。2015年12月に大橋ジムでプロデビュー。2019年4月に日本スーパーライト級王座、同年12月にWBOアジアパシフィック同級王座を獲得。2020年7月に日本同級タイトル戦で7回負傷TKO負けを喫し、引退を表明したが、2023年2月、約2年7カ月ぶりに復帰。同8月、WBOアジアパシフィック・スーパーライト級王座決定戦に勝利。2024年2月22日に、東京・後楽園ホールで、東洋太平洋同級王者・永田大士との王座統一戦に敗れた。19戦17勝(14KO)2敗。左ボクサーファイター。アニメやゲームが好きで、自他ともに認める「オタクボクサー」。

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