東京女子プロレスのパワーファイター渡辺未詩が坂崎ユカの涙で気づかされたこと「ユカさんは世代交代を望んでいない...」 (3ページ目)

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko

 女子プロレスの魅力が「男子よりも感情が出やすい」ところにあるならば、この試合ほどその魅力に溢れた試合はそうそうないだろう。双方の感情があまりにも剝き出しで、見ているのがツラくなるほどだった。特に坂崎にとって、絶対に負けられない試合なのは明白だった。

 結果は、坂崎の勝利。優勝トロフィーを抱えた彼女は、泣きながらこう言った。「私だって、応援されたい」――。

「私はアイドルオタクだから、AKBの総選挙とかを見てきたし、ファンの人たちが世代交代を望む気持ちがよくわかるんです。でもユカさんと闘って、当たり前なんですけど、ユカさんはそれを望んでいないことに気づかされました」

 トーナメントで負けた悔しさよりも、周りの人に話を合わせるように自分も「世代交代したい」と思ってしまったことが悔しかった。恥ずかしかった。坂崎に謝りたかった。しかし、謝って済む問題ではない。どうしようもできない悔しさでいっぱいだった。人生は難しいと思った。

 10月9日、TOKYO DOME CITY HALL大会にて、アレックス・ウィンザーが持つインターナショナル・プリンセス王座のベルトに挑戦し、戴冠した。宮本もか、トリッシュ・アドラ、ジャナイ・カイを相手に防衛を重ねた。

 8月の坂崎戦をきっかけに、「自分はプロレスラーである前に、人として成長しなければいけない」と思った。人として、まだまだ知らないことが多すぎる。それがプロレスラーとしても弱みになっていると感じた。

 坂崎も山下も伊藤麻希も、海外経験を経て手にした強さがある。渡辺はインターナショナルのベルトを持って外国人選手と闘うことで、未知との遭遇を楽しんだ。

 2023年3月18日、有明コロシアム大会にて、辰巳リカの挑戦を受けた。渡辺にとって辰巳は先輩であり、タッグパートナー。ずっと自分をリードしてくれている尊敬する辰巳に挑戦されたことで、坂崎戦以降、考え続けていたことの答えが出た。

「先輩たちも成長しているということを、リカさんと闘ってあらためて肌で感じました。リカさんは普段から何が起きるかわからない闘いをしているし、いつも道場で会う中島さんも『いまだに、そんな知らない動きをやろうとしてるの?』っていうくらい向上心があって、ずっと成長しようと努力し続けてるんです。『止まらないな、この人たち』という気持ち。そんな先輩たちのことを壁に例えるなんて、不適切すぎる」

 辰巳に敗れ、ベルトを落とした。しかし、自問自答しながら成長できた一戦だった。

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