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アントニオ猪木を撮り続けて半世紀。そばにい続けたカメラマンが明かした「最後の闘魂」 (3ページ目)

  • 原悦生●文・写真 text & photo by Hara Essei

「ダーッ」。ファンは猪木とともに叫ぶようになった。「ダーッ」。ファンは猪木とともに叫ぶようになった。この記事に関連する写真を見る 私は、これは猪木さんが用意してくれたプライベートな「別れの儀式」なのかなと思った。私は青い靴下をはいてベッドに横たわっている猪木さんの足を見つめていた。

「こんなに細くなっちゃったんだ」

 猪木さんはその姿をさらけ出した。

「それは人間、見せたくない部分はありますよ。できれば、少しでも元気な姿を見せたいよ」

 あれだけ格好よかったアントニオ猪木の姿と対照的な現実を踏まえたうえで、猪木さんは懸命に生きようとしていた。そこには開き直り以上のものが存在していたのかもしれない。

「なるようにしかならない」という心の叫びが聞こえてきた気がした。

「あるがままの猪木、ありのままの猪木」は格好よすぎた。

「猪木さん、格好よすぎますよ」

 私は眠っている猪木さんに小さな声でつぶやいた。

 アンドレ・ザ・ジャイアントが両手を広げている。

 タイガー・ジェット・シンがサーベルを手にわめいている。

 スタン・ハンセンやハルク・ホーガンがアントニオ猪木に感謝のまなざしを送った。

 サービス精神が旺盛なアントニオ猪木は、彼らと思いっきり対峙した。

 友人だったキューバのフィデル・カストロ議長も、ブラジルのジョアン・フィゲレイド大統領ももう先に旅立った。

 猪木さんがいなかったら、湾岸危機のイラクに行くこともなかっただろう。

 自分は弱っても、最後まで「元気ですか!」という周りへの気遣いを見せながら、猪木さんは静かに呼吸をするのを止めたという。

 10月1日の朝だった。

 その夜遅く、私は猪木さんの顔を見に行った。寝室で猪木さんは静かな穏やかな顔で眠っていた。掛け布団の上の胸のあたりには、赤い闘魂マフラーが置かれていた。

 私は猪木さんとの特別な時間をこんなに長く過ごせたことを幸せに思っている。

「猪木さん、ありがとうございました」

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