未勝利のプロレスラー月山和香、30歳。北海道大卒の才女がリングを生きる場に選んだ理由 (3ページ目)

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko
  • photo by 林ユバ

「医療機器の営業をしてたんですけど、お医者さんから手術中に電話が掛かってきて、『今調子が悪いからすぐ来て! もう麻酔も終わってるから!』とか言われるから、めっちゃ急いで行くじゃないですか。正直、法学部卒でこんなこと言うのはあれですけど、『道路交通法よりも大切なものがある』と思って、運転が......。2回目の免停になった時に上司に電話して、『私もうこの仕事辞めます』と言いました」

 退職後、役者の道に進む。役者を志す人は「どうしてもお芝居がやりたい」という人ばかりだが、月山はそうではなかった。前職で貯めた貯金で、「しばらく働かなくてもやっていける」と思ったのだ。お金があれば、心の余裕が生まれる。好きなことをやろうと思った。

 ある日、舞台で共演したアクトレスガールズ(女優とプロレスを掛け合わせた団体)の林亜佑美が家に遊びに来た。筋トレをする月山を見て、林は「そんなに筋トレが好きなら、プロレスラーになっちゃえば?」と言った。アクトレスガールズの見学に誘われ、行ってみるとマット運動をやらされ、それが想像以上に楽しかった。

「最初、後転ができなかったという人も多いんですけど、私はできたんですよ。若い頃、体調が悪くてできなかったことを、大人になってできるようになったのが本当に嬉しかった。『私、めっちゃ健康じゃん!』と思って、もしかしたらイケるかもと思ったんです。そこからですね」

 練習生になったものの、月山にはデビューしたいという欲がなかった。お金にならなくても、プロレスは楽しい。日々、上達もしている。アルバイトをしていた銀座のバーで稼ぐお金で、生活はできている。それで十分じゃないか。「仕事にしたらプロレスが嫌いになるかもしれない」――そんな不安もあった。

 練習生になって、1年4カ月が経った。代表に「デビューしないの?」と聞かれ、「プロ練習生でもいいかなと思ってます」と答えると、「でもそれ、お金にならへんで」と言われた。もうこのままではいられないのだと思い、デビューを決意した。

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