未勝利のプロレスラー月山和香、30歳。北海道大卒の才女がリングを生きる場に選んだ理由
■『今こそ女子プロレス!』vol.7
月山和香 前編
(連載6:ウナギ・サヤカ、恐竜に憧れた少女はリングで暴れることに夢中になった>>)
人間だれしも、人生というリングの上で闘っている。ときには負けることもあるだろう。しかし、勝つこともあるから頑張れる。小さな勝利でもいい。勝ったときの喜びを知っているからこそ、人は闘い続けられるのではないか。
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それでは、一度も勝ったことのない人間は、どんな思いで闘っているのだろう。
スターダム所属、月山和香――。キャリア1年10カ月にして、いまだ未勝利。今日こそ勝つのではないか。ああ、やっぱり負けてしまった。ファンは期待と落胆を繰り返しながら、次第に彼女の精神状態を心配するようになった。記者会見で表情が暗かった。意味深なツイートをしている。きっと病んでいるに違いない......。
「萩の月(仙台銘菓)の写真をツイートしたんですよ。萩の月、美味しいよねという意味で。そしたらファンの方に『大丈夫?』と心配されてしまって......。なにをツイートしても、病んでいると思われる」
月山に「病んではいない?」と尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「そこそこ長い人生を生きてきているので、つらいことは今までもあったしっていう思いもあります」
彼女の30年間の人生は、平坦なものではなかった。
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月山は1992年、ニューヨークに生まれた。父は整形外科医で、母は眼科医。医師の両親のもと、5歳までマンハッタン近くの富裕層が住むエリアで育った。現地の幼稚園に通い、当時は英語しか話さなかったという。
記憶に残っているのは、雪景色。ニューヨークは、冬になると雪が数十センチも積もる。月山が生まれた1月26日の写真を見ると、その日も大雪だった。「だから今も雪が大好き」と話す。
「今からは想像もできないくらい、めちゃめちゃ静かな子供でした。『鬼ごっこしなさい』と言われても、『私は今、本を読んでいるので、そっとしておいてください』みたいな」
小学校に上がる前、日本に帰国。ひとつ上の兄、5つ下で双子の妹と弟がいるが、父は2人の娘に「運動禁止令」を出した。女の子は怪我をしたら危ないからと、運動をさせてもらえなかったのだ。水泳だけは「最低限泳げないと、いざという時に困る」という理由で、きょうだい全員、スイミングスクールに通った。
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