未勝利のプロレスラー月山和香、30歳。北海道大卒の才女がリングを生きる場に選んだ理由 (2ページ目)

  • 尾崎ムギ子●文 text by Ozaki Mugiko
  • photo by 林ユバ

 中学2年生の途中から、学校に行けなくなった。朝、起きられない。電車で降りる駅に着いても席から立てない。長時間、椅子に座っていられない。病院に行っても原因がわからず、親からは仮病だと言われ、自分でも心の病を疑った。

 今では、その病気は解明されている。「起立性調節障害」だ。自律神経の異常で循環器系の調節がうまくいかなくなる疾患で、立ち上がった時に血圧が低下したり、心拍数が上がり過ぎたり、調節に時間がかかり過ぎたりする。小学校高学年から中学生に多く見られる病気で、不登校児の約半数が起立性調節障害を合併していたというデータもあるという。

 しかし病名がわからなかった当時、月山は自分を責めた。中学でこんなに自堕落な生活を送っていたら、この先、生きていけるのだろうか......。日々、布団の中で悶々としながら、教科書を読んで過ごした。

 通信制の高校に進学すると、徐々に体調はよくなっていった。大人になるにつれ、自律神経は整っていくものだからだ。「今までできなかった運動がしたい」と思った月山は、ソフトボール部に入部。父に猛反対され、隠れて部活に行った。日に焼けないように日焼け止めを塗り、帰宅したらまず風呂に入って泥を落とした。

 高校卒業後、北海道大学法学部法律学科に進学。雪が好きだから、北へ行こうと思ったという。サークルは推理小説研究会に入った。月山は子供の頃から、推理小説が大好きだ。

「どこかしらに欠点を持っている探偵たちが、謎を解いていく。欠点を持っている人たちが、謎解きという唯一の長所を使って事件を解決していくって、すごいことだと思うんですよね。子供の頃は、探偵になるのが夢でした」

 4年生になって単位も取り終わり、就職活動も終えた月山は帰京。芝居が好きで、とある劇団に入った。芝居は楽しかったが、これで食べていくのは現実的ではないと思い、大学卒業後は外資系の医薬品と医療機器のメーカーに就職する。

 しかし、2年で辞めた。理由は「車の運転が苦痛だったから」。

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