山口香が語る「わきまえない」発言が必要な理由。選手時代の苦い思い出 (4ページ目)

  • 村上佳代●取材・文 text by Kayo Murakami

黙っていたら何も伝わらない。だから議論は必要

遠藤 山口さんはJOC理事を務めていますが、常にブレずに、ご自身の意見を発信している印象があります。メッセージを発信するときにどんなことを意識していますか?

山口 柔道界って男性ばかりで。ジェンダーの問題がいろいろ指摘されますが、ずっと女性として組織でやってきたなかで感じるのは、男性に悪気はないんだなということ。悪気はないけれど、女性がどう考えるかをなかなか想像できない。それは女性の私が男性の考え方を感覚としてわからないのと同じだと思います。

 でも、男性が「悪気はないんだから許して」と言うのは違うし、女性側が黙っているのも違う。なので、私は選手の頃から違和感を感じることに対しては、まずは自分が「私はこう思いますけど、どうですか?」と伝えるようにしてきました。すると、「そういう考え方もあるんだ」と聞いてくれて、流れが変わることもある。

遠藤 男性社会の間口の狭さというか、想像力が欠如しているのかもしれないですね。すごく狭い世界で議論をしていることがおかしいと気がつかない。

山口 私の意見が正しいとは思っていませんが、全員が1つの方向だけを見て議論をするのは危うい。ですから私の場合は「こんなことも検討してみたらどうですか?」と議論の材料を提供するような感覚で発言しています。

遠藤 議論の質が良ければ、意思決定の質は間違いなく高まります。しかし、日本人は議論をすることに慣れていません。そもそも訓練をされていないし、何か発言すると「面倒なやつ」と思われてしまうこともあります。

山口 まさにそうですね。手を挙げていると「またお前か」と言われたり、見なかったことにされたり(笑)。でも、言わなければ何もはじまらないんです。スポーツをするのと一緒で、議論をするのはエネルギーを使います。やらないで勝ち負けを決めるのが一番簡単。でも、スポーツがそうであるように、議論する課題はじゃんけんで決めればいいものではないですよね。

 議論のなかでお互いが学んだり、気づかされたりする。全員一致で「異議なし」で進んでしまったら、個人も組織も成長するわけがないんです。

(後編につづく)

【Profile】
山口香(やまぐち・かおり)
柔道家、筑波大学体育系教授。1964年東京都生まれ。小学校1年生から柔道をはじめる。13歳の時に出場した「第1回全日本選抜柔道女子体重別選手権大会」で最年少ながら優勝(50kg級)。以後、同大会で10連覇を果たす。1984年世界選手権優勝。1988年ソウルオリンピック(公開競技)では銅メダルを獲得した。1989年の現役引退と同年に、筑波大学体育学修士課程終了。現在は教授として教鞭をとる傍ら、日本オリンピック委員会(JOC)理事、コナミ取締役、日本学術会議会員など、多方面で活躍している。漫画『YAWARA!』(小学館)の主人公・猪熊柔のモデルとしても有名。

遠藤功(えんどう・いさお)
株式会社シナ・コーポレーション代表取締役。1956年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業。米国ボストンカレッジ経営学修士(MBA)取得後、三菱電機、複数の外資系戦略コンサルティング会社を経て、現職。2005年から2016年まで早稲田大学ビジネススクール教授を歴任。現在は、独立系コンサルタントとして、株式会社良品計画、SOMPOホールディングス株式会社、株式会社ネクステージ、株式会社ドリーム・アーツ、株式会社マザーハウスで社外取締役を務める。著書に『生きている会社、死んでいる会社』『新幹線お掃除の天使たち』『コロナ後に生き残る会社 食える仕事 稼げる働き方』など。

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