37歳の料理人ボクサーの世界戦。「このくらいなら」の強気が勝敗に響く

  • 杉浦大介●文 text by Sugiura Daisuke
  • photo by Getty Images

「試合前は勝つシーンも負けるシーンも両方想像して入るんですけど、まさか1ラウンドとは・・・・・・なかなか厳しい現実だなと思います」

 8月25日、アリゾナ州グレンデールのヒラリバー・アリーナで行なわれた"ラストチャンス"の一戦を終えて、37歳の大竹秀典(金子ジム)はそう語り残した。

WBO世界スーパーバンタム級タイトル戦で、王者を攻める大竹WBO世界スーパーバンタム級タイトル戦で、王者を攻める大竹 この日のWBO世界スーパーバンタム級タイトル戦で、王者アイザック・ドグボエ(ガーナ)に初回TKOで惨敗。開始約85秒で強烈な左フックでダウンを奪われ、直後に右オーバーハンドで再び倒された。その後も足をふらつかせながら王者のパンチを無防備に浴びる大竹を見て、レフェリーのクリス・フローレスにはこのラウンドを2分18秒でストップする以外の選択肢はなかった。

「(接近戦は)ドグボエの好きな距離だったと思うし、そこに自分から入っていってしまった。僕も楽な距離でやれるっていうのがあった。『パンチはあるけど、このくらいなら』という感じはあったんですけど、やっぱりフックが入ってしまった」

 試合後、大竹がそう話した通り、王者と挑戦者は開始ゴング直後から互いに得意とする接近戦でパンチを交換し合った。スピード、パワー、パンチのキレ、そのすべてでドグボエが上。大竹は開始早々から左フック、強めのジャブで膝を揺らされており、序盤にダウンシーンが訪れたことは驚きではなかった。

 惜しむらくは最初のダウン後、クリンチ、ホールドを駆使してダメージ回復までの時間稼ぎができなかったことか。打たれ強さに自信があった大竹は、「クリンチワークはあまり練習してはこなかった」と言う。しかし、この日まで19戦全勝(13KO)のハードパンチャーと、足にきた状態で打ち合うことはあまりにもリスキーすぎた。特に2度目のダウン後、ラウンド終了までもう1分を切っていたところで、なりふり構わず小柄なドグボエにしがみついていれば・・・・・・。

 いや、そこで何とか延命したところで、結果は変わらなかったのだろう。ドグボエは勢いだけで突っ走ってきた選手ではない。正規王者になった4月のジェシー・マグダレノ(アメリカ)戦では、初回にダウンを奪われながら後半にペースを上げて11回TKO勝ちを収め、心身両面でのタフネスぶりを証明している。

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