2016.11.05

「物語」は終わらない。
37歳のマニー・パッキャオが復帰を決めた理由

  • 水野光博●文 text by Mizuno Mitsuhiro
  • photo by AFLO

「ボクサーに必要なのは”物語”だ」

 時に「北半球で最低の野郎」「金の亡者」と揶揄(やゆ)されながら、史上もっとも成功したプロモーターのひとり、ボブ・アラムは言う。

 アラムの定義を用いるならば、少なくとも現役最高のボクサーは、マニー・パッキャオ(フィリピン・37歳)であることに疑いの余地はない。

公開練習でキレのある動きを披露したマニー・パッキャオ フィリピンのなかでももっとも貧しい地域に数えられるミンダナオ島に生まれたパッキャオは、極貧の少年時代を過ごした。父のいなかったパッキャオと、幼なじみでのちにパッキャオのトレーナーとなる母のいなかったボボイ・フェルナンデス。ふたりは食いつなぐために路上でパンを売り、1匹のイワシを分け合い飢えをしのいだ。

 16歳、パッキャオはプロデビュー。デビュー戦のファイトマネーは、100ペソ(約200円)だった。

「俺たちは、脚に短刀をつけて戦う”闘鶏”だ」

 パッキャオは、自身とボボイを「闘鶏」に例えた。一度リングに上がれば、死ぬまで降りることはできない。命がけの殺し合いに観客は熱狂し、鶏は賭けの対象となる。勝ち続けることだけが、闘鶏の生き残る道だ。

 噛ませ犬として、そのキャリアをスタートさせたパッキャオは、闘鶏をもしのぐ闘争心を武器に勝ち続ける。いつしか、ボブ・アラムの目にとまり、ファイトマネーは跳ね上がった。ちなみに、「世紀の一戦」と銘打たれた2015年5月のフロイド・メイウェザー・ジュニア(アメリカ)との一戦、パッキャオのファイトマネーは1億6000万ドル(約192億円)とも言われている。