課題山積。山口香が語る「日本柔道界、腐敗の始まり」 (3ページ目)

  • 木村元彦●取材・文 text by Kimura Yukihiko

――女子を男性が指導をすることで起きた「暴言」という点についても問題が指摘されました。

「正直、かつて女子柔道は、男性の柔道家から相手にされてなかったんですよ。強化費といっても、『お金をどぶに捨てるようなもんだ。女なんかどうせ弱いんだから』と言われていた時代を私たちは経験してきました。だから、私も含めてその当時の選手たちは、『あんたたちに強くしてもらったんじゃない』と。ついこの間まで相手にしなかっただろうという思いがあります」

──なでしこジャパンと一緒ですね。

「そうですね(笑)。それを、男子柔道が弱くなってきて、女に頼らざるをえなくなって、急に『女子も頑張れ』というような。それはかまわないのですが、そうやって強くなってきた女子柔道の選手たちをつかまえて、お前たちは言われなきゃやらない、殴らなきゃやらないと。

 殴られなきゃやらないような選手だったら女子柔道はここまでこなかったです。昨日、今日、女子柔道に関わったようなコーチや監督から、そんなことを言われる筋あいは何ひとつない。

 私が選手たちに言いたかったのは、『貴女たちがやられていることは、私たちが作ってきた伝統を辱めていることなんだと。今まで礎(いしずえ)を築いてきた人間たちが馬鹿にされている』と。そこが私のいちばんの怒りの根源ですね」

――実績については創成期の方が大きかった。

「88年のソウルオリンピックに女子柔道は5人出場しましたけど、金メダルひとつ、銀メダルひとつ、銅メダル3つ。もちろん世界の選手層がどうだったということ もあるけれども、その時代でもオリンピックで5個のメダルを取りました。じゃあ去年のロンドンでいくつ取ったのか。つまり、今の選手たちに分かってほしかったのは、恵まれなかった時代の選手たちのほうが自立をしていて、柔道だけではない強さを学んでこられた。

 それがいろいろとシステムが整って、その上に乗っかった選手たちがそのことを忘れて弱くなってしまうのだったら、じゃあなんのためにシステムを整えて、強化費を入れてやってきたんだということです。そこは、悲しいことだと私は思うんですよ」

――88年のソウルの時の強化システムは、どのようなものだったのでしょう。

「男性は至れり尽くせりでコーチの人数も多かったですし、投げ込み相手も現地に連れて行く、ドクターもトレーナーもシェフも連れて行く。私たち女子選手は、公開競技ではありましたけれども、そういったサポートは何もなかった。ただ、やってもらいたいことはきちんと口に出して主張したし、やってきた。だから、やらされていた選手ではなかったです」

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