益子直美はパワハラ指導をなくしたい。「怒る」のではなく「考えさせる」 (2ページ目)
「怒る」と「アドバイス」の境界線
―― 「気合いを入れろ!」といった声かけは自分では怒っている意識もなく、つい言ってしまいそうですね。怒っているかどうかを判断する基準はありますか?
「私が『益子直美カップ』で監督が怒っているかどうかを判断するときは、子どもたちの表情を見るようにしています。言われても気にしていない子もいれば、しゅんと落ち込む子もいます。もちろん、監督も見ていると思いますが、見慣れてしまって子どもたちの変化に気がつかないことがあるのかなと。ちょっと引いた視点で見るのが大事だと思います」
―― 声かけ時の具体的な注意点はありますか?
「バレーボールは、コートとベンチが近く、すぐに声をかけられる競技です。例えば、『今のボールは前だろ!』と言われて前に行くと、次は後ろにボールが来て『なんで前にいる、後ろに下がれ!』と言われる。こういうことを繰り返していると、子どもたちは常に監督の顔を見ながらプレーしてしまって、自分で考えることをやめてしまいます。ベンチから見る風景とコートの中で見る風景は違うので、なんでもすぐに指示を出すのではなく、ある程度は子どもたちに任せてみることが大切なのかと」
―― 教えるのではなく、考えさせることが大事なんですね。
「『まだ子どもだから、大人が全部教えなければいけない』という考えを持っている方もいますが、子どもたちって実はすごく考えているんですよね。『益子直美カップ』で子どもたちにアンケートを取ると、『監督が怒らないからといって甘えず、自分たちで声かけを意識しました』と書いてあったりする。子どもたち自身に課題を与えたわけではないのに、自分たちで考えてチャレンジしているんです。ぜひ、指導者の方には、子どもたち自身が工夫して考えるような場面をつくってほしいですね」
―― 子どもたちのモチベーションを高めるには、どんな声がけがいいと思いますか?
「1人ひとりの受け止め方が違うので、大事なのは日頃の観察とコミュニケーションだと思います。例えば、私のセミナーに参加してくれた方の高校2年生の息子さんは、『ドンマイ』と言われるのが嫌いと言っていました。確かに、この言葉には『ミスしても大丈夫、私は気にしないから』といった少し否定のニュアンスを含んでいるようにも受け取れます。多くの人は気にならないかもしれないけれど、彼にとってはやる気がそがれる言葉なんですね。楽しく、全力でプレーするためにどんな言葉をかけてほしいかをお互いに知るには、やっぱり日頃からの話し合いが必要です」
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