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35歳の錦織圭が今、スライスを使いたがっている理由「若い選手と打ち合い続けても、たぶん勝てない」 (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki

【スライスの参考は20歳の伊藤あおい】

 加えるならこの試合での錦織は、ある試みをしているようにも見えた。

 それは、スライスの多用──。相手の球威と闘志をいなすかのように、逆回転をかけたショットをスルリと繰り出す。それもバックハンドのみならず、フォアでも2本、3本と続けて放っていた。

 思えば「スライスの重要性」は、錦織が日本のトップジュニアを対象としたセミナーでも、熱く伝えていたことだった。

「スライスは本当に大事。グリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)が33歳になってもトップ10に入り、カルロス・アルカラス(21歳/スペイン)やヤニック・シナー(23歳/イタリア)とも戦えているのは、スライスがあるのが大きいと思います。そういう器用さは、フィジカル的にあまり恵まれていない選手には必要かなと思うんです」

 昨年末、そんな言葉を錦織の口から聞いた。

それはおそらく、ジュニアだけでなく、自分自身にも言い聞かせていることなのだろう。

 実際に、今大会での錦織に「以前よりもスライスを使いたいという思いがあるのか?」と問うと、「あります、全然あります。全然あるけど、使えてないです」との言葉が返ってきた。

「『使いたい、使いたい』と思いながらも、なかなか使えなくて。本当はもっとスライスを混ぜたいんですけど、たぶん自分のバックが打てるし、十分通用するので、それに慣れちゃっている。今日(3回戦)はけっこう風もあったので、スライスを混ぜたらイヤらしいかなとか思ったんですが......」

 もどかしそうに思いを紡ぐ彼は、「ちょっと、あおいちゃんを目指しながら」と、小さく笑いながら続けた。

 錦織がここで言う「あおいちゃん」とは、ここ半年ほどで急激に頭角を現した20歳の「伊藤あおい」のことだ。

 現在106位につける彼女の持ち味は、なんといってもフォアのスライスにある。相手の強打をいなし、前後左右に揺さぶり、自分のペースに引き込むそのユニークなスタイルで、伊藤ははるかにパワーで勝るツアーの手練れたちを破ってきた。

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