錦織圭の2024年 肩・ひざ・足首の痛みを乗り越え完全復活への兆し「来年に向けていい準備ができた」 (3ページ目)
【テニス界全体を俯瞰する視線と見識】
思えば2011年から今日まで、錦織は多くを経験し、変わるものと変わらぬものを積み重ねてきた。ひじと股関節にメスを入れ、手首の腱脱臼という選手生命を脅かしかねないケガも克服した。選手としては若手からベテランになり、私生活では結婚し、父になった。
2011年時には、エキシビションの本気度とエンターテインメント性のバランスに苦心したが、今回は魅せる妙技を次々披露。時にはおどけ、ガチのミスには腰砕けでパタリと倒れ、客席を大いに笑わせもした。若手を適度に"いじり"つつも、「この中で唯一YouTubeチャンネルを持っている内田海智は、毎日更新しているのに、誰も知らなくて」と、さりげなくチャンネル宣伝する気配り。
「いい選手は、やっぱり日本にはいる。(望月)慎太郎が伸び悩んでますけど、才能のある選手ですし、最近は坂本(怜)くんが結果を出し始めている。今回参加した女性ふたり(石井さやかと小池愛菜)はフロリダでよく見てますけど、うまくなったなというのは今日見て感じました。車いすは昔から(国枝)慎吾さんがいて、今日のふたり(上地結衣と小田凱人)が出てきて、車いすに関しては頼もしさすら感じています」
すらすらと紡がれるその言葉にも、テニス界全体を俯瞰する視線と見識が映し出された。
再び「ゼロに戻った」という錦織だが、もちろん選手としても、人としても、以前と同じ彼ではない。酸いも甘いも経て再び走り出す2025年の戦いは、踏破してきた月日を映し、間違いなく深みを増す。
著者プロフィール
内田 暁 (うちだ・あかつき)
編集プロダクション勤務を経てフリーランスに。2008年頃からテニスを追いはじめ、年の半分ほどは海外取材。著書に『錦織圭 リターンゲーム』(学研プラス)、『勝てる脳、負ける脳』(集英社)など。
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