かつての天才少女・奈良くるみが引退、独占インタビュー。「がんばれているから、辞めてもいいのかな」 (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

宮里藍の言葉に救われた

 そのような意識の変化をもたらしたのは、一冊の本だったと奈良が明かす。今ではどういう経緯か判然としないが、「誰かからの差し入れでいただいた」ものだった。

「それは、ゴルフの宮里藍さんの本で。『I am here.』というタイトルだったと思います。私と比べるのはおこがましいですが、宮里さんもジュニアからすごくて順調に来ていて、でも、壁にぶつかってスランプになり......ということがあって。

 それでも、今を大切にという内容で、読んで『すごくかっこいいな、私もこうなりたい』と思ったのがきっかけでした。結果が出なくても、こういうふうになれたらいいなと、自分の未来を描けたのはすごく大きかったです。

 宮里さんも自分のゴルフを模索していた時期に出された本で、最後『待っていてください。私は必ずツアー優勝します』で終わったんです。そしたら本当に、そのすぐ後にLPGAツアーで優勝したので、すごく感銘を受けました」

 その歩みに、自分と似たものを感じた宮里の抱える苦悩と思想は、奈良の心にもすっと染み込んだのだろう。そこからは、「自分の成長に精一杯だったので、あまり相手がどうとか考えなくなった」とも奈良は言う。

 彼女が唯一、負けたくなかった相手......それは、自分自身。「自分を落胆させるのだけは嫌」という信念が、つまりは、「負けず嫌いではない」の言葉の真意だった。

「ひとつ、自分でいつも笑っちゃうのが......」と、彼女は照れた笑みで続ける。

「私、『世界に一つだけの花』を、ジュニアの時は絶対に聞かないようにしてたんです。『No.1にならなくてもいい』という歌詞があるじゃないですか。あの頃は『No.1にならなきゃ意味ないでしょ』って思っていたので聞かなかったんです。

 でも今は、『なんていい曲なんだろう!』って。それくらい方向チェンジしました。昔は、あの歌詞が受け入れがたかったので」

 こうして、コーチの指示を、苦手だった歌の詞を、そして等身大の自分を受け入れた奈良は、ほどなくトップ100の壁を突破し、さらには「予想もしていなかった」というツアー初優勝も手にした。宮里の本を読んでから、1年未満のことである。

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