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自らの理想に苦しむ大坂なおみ。
考え過ぎ性分が心と身体を蝕んでいる (2ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 大坂にとっては、あまりに不運なネットの気まぐれ。だがそれは、相手が貫いた意思の帰結という意味では、必然であり、大坂を敗戦の道へと突き落とす決定打となった。

「考えすぎてしまう性格なの」というのは、今大会を迎えた時、大坂が口にした言葉である。

 自分の周りで何が起きているのか? 周囲が自分をどう見るのか? そのような周囲の動きに対し、自分はどう応えていくべきなのか......?

 それら「鋭敏な感受性」と「完璧主義」な性向は、彼女に2度のグランドスラム優勝と、世界1位の座をもたらした主成分だ。だが、今はひるがえって、彼女の心を蝕(むしば)む腫瘍となる。そのことを顕著に物語るのが、試合後の会見での以下のようなやりとりだ。

「今の女子テニスでは、多くの選手がツアーで優勝している。そのような現状を踏まえた時、初戦敗退も致し方ないことであり、失意も薄まるとは考えられないか?」

 その質問を受けた時、腫れた瞼(まぶた)に涙の跡をうかがわせる大坂は、怪訝そうな表情を浮かべて、「初戦敗退が仕方ないことと思えるか、という意味?」と問い返すと、こう続けた。

「それはない。むしろ、敗戦の痛みが増す。だって、より多くの人が、今まさにあなたが言ったようなことを、これからも言うようになるだろうから......」

 質問者が口にしたように、今季の女子ツアーではここまで32の大会が開催され、24人もの選手がタイトルを手にしてきた。「女王不在」が女子テニス界を語る常套句となってすでに長く、新たなスターや絶対的な世界1位を求める機運は年々、強まっている。

 大坂は、皆が求めるその存在に自分がならなくては......と思いつめている感が強い。3月のBNPパリバ・マスターズでは、サインや写真を求める子どもたちの姿を目にして、「私がかつてトップ選手たちに憧れたように、今度は私がこの子たちのロールモデル(お手本)にならなくては」と決意したと言った。

 全仏オープンが近づくと、「どうしても第1シードとしてグランドスラムを迎えたい」と公言し、なおかつ、「四大大会すべてを制する『キャリアグランドスラム』を成し遂げたい。できればそれを、今年1年間で達成したい」とも口にした。

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