2019.07.03

自らの理想に苦しむ大坂なおみ。
考え過ぎ性分が心と身体を蝕んでいる

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki
  • photo by AFLO

 試練の時、あるいは、真の女王への通過儀礼――。

 そのような言葉が、 “テニスの聖地”と謳われるオールイングランド・ローンテニス・アンド・クローケー・クラブに立ち込める。

 感極まった表情を両手で覆う勝者と、やや長く伸びた影を引きずるように、祝福の空間に背を向け出口へ向かう敗者。残酷なコントラストに彩られたセンターコートを、世界2位の大坂なおみは、うつむいたまま後にする。

ウインブルドン1回戦でまさかの敗退となった大坂なおみ ウインブルドン1回戦。大坂なおみは、約10日前の前哨戦での対戦に引き続き、試合巧者のユリア・プチンツェワ(カザフスタン)に6-7、2-6で敗れた。

 早々にブレークを奪う幸先のいいスタートに、暗転の兆しが差し込んだのは、3-2とリードした第6ゲーム。先の対戦でも手を焼いたプチンツェワのスライスを、大坂はバックハンドで強引に打ち返すも、一度はボールはラインを超え、一度はネットを激しく叩いた。

 その直後のゲームでは、ブレークのチャンスを再びバックのミスで逃す。第1セットのタイブレークでも、リードするも相手の絶妙なドロップショットを機に、手繰り寄せた主導権を握りしめる前に取り落とした。

 大坂の心と足もとを揺さぶったのは、小柄でパワーでは劣るプチンツェワの、迷いなき策でもある。

「あのすさまじいサーブと攻撃的なメンタリティを思えば、ナオミは将来、芝でもっとも危険な選手になる」

 大坂にそのような敬意と表裏の警戒心を抱くプチンツェワは、「あらゆるショットを織り交ぜて、ナオミに心地よくプレーさせいないようにした」と言う。

 その業師が掴んだ第2セットのブレークポイントは、試合の分水嶺という意味でも象徴的だった。

 大坂の高速サーブをバックのスライスで打ち返したプチンツェワのリターンは、ネット上部の白帯を叩いて小さく跳ね上がると、再びネットをかすめて、ゆっくりと大坂コートへと落ちる――。

 プチンツェワはのちに、このリターンは「意図的にドロップショットにしたのではなく、短くスライスで返そうと思っていた」のだと笑顔で打ち明けた。