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もうひとつの全米OP物語。
「華の94年組」小和瀬望帆はNYにいた (3ページ目)

  • 内田暁●取材・文 text by Uchida Akatsuki

 ただ、当時の小和瀬は大学で学ぶマーケティングやマスメディアも楽しく、テニス以外のことに心が傾斜するのも感じていた。

 そんな彼女が、プロへの想いを断ち切るひとつの契機が、大学で組んだ2歳年少のダブルスパートナーだったという。テニスがどこまでも好きで、夢を追うことに一切の迷いを抱かぬチームメイトの姿は、「プロになるのは、こんな娘たちなんだ」という、ある種の諦観を彼女に与えた。

 そのパートナーと挑んだ大学生活最後の全米大学選手権で、小和瀬は決勝へと勝ち進む。

「これが人生最後の試合」――。そう心に決めた決戦を制し、彼女は、全米の頂点に立った。

 優勝したとき、プロへと心は揺れなかったのか......?

 幾分意地悪なその問いに、彼女は「難しい質問ですね」と苦笑を浮かべる。

「でも......優勝して、いい終わり方ができたなと思いました。それ以外は、あまり考えられなかった」

 15ヵ月前の自身の胸中を探り、彼女は、柔らかに微笑んだ。

 全米大学選手権優勝の約1年後、小和瀬は日本テレビのニューヨーク支局に「ニュースプロデューサー」として就職する。なお、ダブルスパートナーのフランチェスカ・ディロレンゾ(アメリカ)は、卒業を待たずにプロに転向。今年の全米オープンには予選から出場し、本戦でも勝利を掴んでいる。その記念すべき全米オープン初勝利のコートサイドには、熱い声援を送る小和瀬の姿があった。

「ミホは、自分がどれだけ才能があるかわかってないのよ!」

 プレースタイル同様の快活な口調で、ディロレンゾは元パートナーを評する。

 その言葉をうれしく受け止めながらも、小和瀬は「私はプロ向きの性格ではなかったんだと思います」と、微かに寂しそうな笑みを浮かべた。

 テニスに未練はないかと問われれば、答えは間違いなく「ある」だ。

「もしあのままテニスを続けていたら、どうなっていたんだろう......」

 そんな思いは、今も時折、胸をよぎる。

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